アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
第二章 秘密(5)
-
そうやって、どんな話のときでも、率直で淡白でざっくばらんな桐谷さんが、しかし唯一、言葉少なになるのは、橘さんについてのことを尋ねたときだった。
「橘さんとは、つき合い長いんですか」
別に深い意味はなく、思いつきでそう尋ねた。しかし、桐谷さんは、そのとき、ぱっと顔を上げて
「なんでそう思う?」
と逆に、俺に訊き返してきた。
桐谷さんへの質問に、なんで、などと返されたのはこれが初めてだった。訊いてはいけないことだったのだろうか。
「え。桐谷さんが下の名前で呼び合ってるの、橘さんだけだから、なんとなくふたりはつき合い長い気がして」
実際は、それだけではなかった。
寮も違うし、ふたりでいるところを見かけることはそんなに多くなかったが、桐谷さんと橘さんが一緒にいるときは、必ず、ふたりきりでいるのだった。
そして、そんなとき、他の者がふたりの空間に気軽に近寄っていくのは、なんとなくはばかられるような独特の親密な空気が、ふたりの間にはあった。
「長いよ。小学校、上がる前から」
ぽつんと桐谷さんは言った。
「そんなに長いんですか。幼なじみっていうやつですか」
「うん、まあ、そんなかんじかな」
そして、桐谷さんからはそれ以上、言葉は返ってこなかった。
橘さんのことを誰かに話す桐谷さんは、どことなくうわの空でぼんやりしたかんじで、でも、どことなく、嬉しそうだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
21 / 246