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第三章 帰郷(2)
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興味のないことには一分一秒も自分の時間を割けない性質の桐谷さんと違って、西野は、どんな相手にも当たりがソフトで、愛想がいい。
だから、ますます周りは容赦なく群がってきて、結局、静かになれる場所としては、自室にこもるしかなくなるのだった。
部屋に戻ると、「嶋田といると、気を使わないでいいから楽だな」と西野はよく口にした。
「いやだったら、言ってもいいんじゃないの?」
「全然、いやとかじゃないよ。みんな悪意があってしてるわけじゃないんだし。でも、イメージと違うことはできないかなってちょっと気を使うだけ」
西野は、俺に対する不要な遠慮が減って、いろいろな場面で素直に本音を口にすることが多くなり、俺の他愛ない冗談でいつもよく笑った。
俺たちは、例の東屋に、今では、夜中にこっそりではなく、平日の自由時間や、休日の俺の部活が終わった夕方くらいから、しばしばふたりで通っていた。
猫が俺にも慣れて、自分から俺の膝に乗ってくるようになったころ、西野は、自分が猫たちにつけた名前を教えてくれた。
「こっちが、ピタで、そっちがゴラで、あの子がスー」
「ピタ、ゴラス?」
「そうなるね。でも、もとは好きなテレビ番組に出てくるキャラクターからつけたの」
ふーん、と俺は相槌を打って、それぞれの猫の特徴と今聞いた名前を一致させようと頭の中で反芻していると、
「なんか自分が好きなもののこと話すのって、恥ずかしいな。嶋田だけにしか言ってないから、名前のこと、他の人には内緒にしてね」
と西野は本当に少し恥ずかしそうに、頬をほんのり赤く染めた。
「わかった」
と答えながら、自分の胸に何か甘美な感情が広がるのを、俺は意識せざるをえなかった。
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