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第三章 帰郷(12)
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言った瞬間、言い過ぎたと思ったが、口をついて出てしまったものはもう元には戻せなかった。
座はしんと静まり返り、俺は気まずくなって、ちょっとトイレ、と言い残して立ち上がろうとしたが、次の瞬間、
「失礼します」
と襖の向こうで仲居さんの声がして、襖がすっと開いた。
そして、空いた皿を次々座敷の外に下げたあと、
「お誕生日、おめでとうございます」
と今まで見たこともないような巨大なホールのバースデイケーキを、座卓の上に置いて去ったのだ。
ケーキが置かれた皿のふちには、チョコレートでぐるりと回るように、 『隆弘さん おたんじょうび おめでとうございます』と書かれてあった。
「お父さん、隆弘に用意してくれとったんですか」
母も知らなかったらしく、父に優しく問うと、
「再来週じゃから、まだ早えけどな」
と親父はよそを向いたまま、つぶやくように言った。母は、
「当日は今年も会えんからねえ。今日お祝いしとこ」
と嬉しそうに言って、智樹とハッピーバースデイを歌いだし、西野も笑顔で合わせて歌った。
俺は、トイレに行くタイミングも失って、なんだか親父とふたり、気まずいまま、智樹がつけたろうそくの火が揺れるのをじっと見ていた。
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