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第三章 帰郷(15)
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釣りは、俺も何度か親父に連れてこられたこともある、川の河口付近で始まった。
西野に、釣りの経験があるかと尋ねると、初めてだという。やっぱり、親父に気遣って興味もないのに連れてきてしまったかと申し訳なく思ったが、釣り竿に触るのも初めてという西野は、竿の選び方から親父に熱心に教わり、存外、楽しそうにしていた。
今日の狙いは、ハゼだった。
親父に聞くと、今日の満潮は9時過ぎだというから、これから満潮に近づく今くらいがハゼ釣りにはちょうど時間帯もよかった。
初心者の西野には、扱いやすい2mほどの短い竿を渡して浅瀬でちょい投げさせ、親父と俺は、とりあえずもう少し沖を狙って、4mほどの延べ竿を置いて引きを待ったのだが、最初に当たったのは、西野の竿だった。
ぷるぷるっと当たりが来たのを西野が焦ってすぐに強く引こうとするので、俺は慌てて、西野の手を上から押さえた。そして、一呼吸して、西野の手に自分の手を添えたまま、すーっと静かに竿を引き上げると、この時期にしては大きい13㎝ほどのハゼが宙に浮いているのが見えた。
俺は竿を操って、そっと西野の前にハゼを持っていくと、「外してみたら」と西野を促した。
西野は最初こわごわと魚に触ったが、少し苦労しながら針を外すうちにその感触に慣れたようだった。
バケツに入れたハゼを上から眺めながら、西野は
「えー。こんなの釣れちゃった。すごーい。楽しい」
といつになく興奮した様子でつぶやいた。
親父と俺は、最初の置き竿はそのままに、ポイントを変えて、西野が獲物を釣り上げた付近の浅瀬に、新しい竿を垂らしてみた。思った以上に早く、次の引きが来て、そこからは休む間もなく、ほとんどワームをつけなくても自分から食いついてくるハゼを拾い上げ続けた。
小ぶりなハゼを50匹ほど釣り上げたところで、日差しがきつくなってきたので、今日はもう引き上げることにした。
今日の収穫のうち、10匹ほどは初心者の西野が取ったもので、帰りの車の中で、「すっごい楽しかった」と満面の笑みで何度も繰り返す彼に、「今日はたまたまいいポイントに当たっただけで、もちろん全然駄目な日もあるから」と俺は念を押したが、そう言いながら俺も今日の成果に満たされ、興奮していた。
親父は、朝早かったから、寝とってもええで、と俺たちに言ったが、西野も俺も気分が高ぶっていてとても眠れず、家に着くまでずっと今日の体験について語り合っていた。
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