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第三章 帰郷(16)
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次の日、俺と西野は延期になった市内観光に出かけ、俺は一日、西野に街を案内した。そして、うちに帰ると、母の手作りの夕飯を食べ、夕食後は、智樹も交えてテレビゲームやボードゲームに興じた。
その翌日からは、毎朝、早起きして、ふたりで少し遠出した。電車で瀬戸大橋を渡って四国に行ってみたり、逆に、北へ電車を乗り継いで山陰地方を訪れたり、フェリーで小豆島に渡ってみたりした。そして、夜遅くに家に戻って、母の温めてくれた夕飯を食べると、すぐにふたりとも泥のように眠った。
俺たちはふたりとも、帰省してから一度も学校のテキストや宿題のワークシートを開いておらず、こんなに長く勉強しなかったのはいつ以来だろうと言っては笑いあった。
そして、帰寮の日を翌日に控えた水曜日、俺は西野を、実家から少し離れたある町の、小さな水族館に誘った。
ジンベイザメやイルカ、マグロの群泳が見られたりする、華やかな首都圏の巨大水族館とは違って、下手すると、鮮魚店にある水槽が並べられただけのようにさえ感じられる、地味な展示だったが、西野は、先日、大量に釣れたハゼや、他にもハゼと一緒に、少しだけ釣れたセイゴやヒイラギの姿をしっかり覚えていて、それらを水槽の中に見つけては、自分が釣ったものより大きいとか小さいとか言って、喜んでいた。
しばらくふたりで館内を見学して、表に出た。外の空気はむっとしていてやはり暑くはあったが、その日は曇っていたので、散歩できなくはなかった。俺たちは水族館から海岸まで続く松林の道をゆっくり歩いた。
俺は、自分が小学校に上がる前は、休日は母に連れられて、このあたりによく遊びに来ていたのだと西野に話した。
「さっきの水族館、未就学児だと入館料タダなんだ。うち、昔、親父の会社がまだ全然まともな稼ぎなくて、すごい貧乏だったから、ここだとほとんど金使わないで過ごせるから、母とよく来てた。ほんとに金なくて、母さんが自分の、2百円の入館料も払えないときは、水族館には寄らずに、この松林を篤哉と走ったり、この先の海岸でみんなで遊んだりした」
「そうだったんだ。じゃあ、お父さん、本当に一代でここまで頑張られたんだね」
「運がよかったんだ。親父が、パチンコ屋で、客を殴ってから、全てが一瞬のうちに変わった」
西野が不思議そうな顔でこちらを見た。
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