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第三章 帰郷(17)
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俺は、
「俺がまだ小学校3年くらいのときだったと思う。
親父が営業先のパチンコ屋に寄ったとき、駐車場に止めてあった隣の車に、小さな男の子が置き去りにされてるのに気づいたんだ。今日みたいな暑い夏の日で、その子は、店の中でパチンコやってる親の手で、チャイルドシートにがっちり固定されたまま、汗だくになって泣きわめいてたって。
親父はああいう人間だから、そんなの見たら、冷静に対処なんかできるわけないんだ。
頭に血がのぼった親父は、自分の車に置いてあったレンチで、すぐにその子のいる車の窓をたたき割って男の子を助け出すと、自分の持ってたペットボトルの水を飲ませて、救急車を呼んだ。
そうして、表の騒ぎにに気づいた父親が店から出てきたとき、親父はそいつに馬乗りになって、こぶしで何度も顔面を殴りつけた。店の従業員が止めに来なかったらたぶん死ぬまで殴ってたって後で言ってたよ。
警察は親父に同情的で、相手も多少恥を知ってたのか親父を告訴したりしなかったから、親父は留置所に一日拘留されただけで何もお咎めを受けなかったんだけど、店先でそんな騒ぎを起こしたせいで、大事な大口取引先をひとつ失った。
まだ零細だった親父の会社にとって、そのことは大打撃だったはずなんだけど、その騒動の直後に、ある漫画家のマネージャーから、親父の会社に自分の作品の版権を売りたいって申し入れがあったんだ。
その版権は、10年以上にわたって何度もアニメ化や映画化が繰り返されて、世界中で何億部も売れた大ヒット漫画のもので、どんな大手のパチンコ機器メーカーも喉から手が出るほどほしがってたんだけど、作者がパチンコなんかに絶対売らないってずっと門前払いを食らわせてたんだ。もちろん、資金もコネもない親父に、本来だったらそんなビッグな版権が手に入るはずもなかった。
でも、ある週刊誌が、親父が起こした騒動やその後の窮状を好意的に取り上げてくれて、その記事がその作家の目に留まって、親父にだったらってわざわざ申し出てくれたんだ。
その版権を使った新機種は爆発的に売れて、第二弾、三弾と新機種を投入していくうちに、親父の会社は国内最大のパチンコ機器メーカーにのし上がったわけ」
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