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第三章 帰郷(18)
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「そうだったんだ」
「奇跡だよ。親父はツイてた」
「運もあったと思うけど、俺、お父さんの人柄が運を引き寄せたんだと思うよ」
西野は俺が言ってほしかったことを言ってくれた。
そうして、ふたり並んでゆっくり歩いているうちに、松林も途絶えて、俺たちが目指していた海岸に着いた。
そこにはお盆休みの海水浴客があふれ、友人、恋人同士のグループや家族連れが入り乱れ、喧々たる様相を呈していた。
俺たちは水族館に行ったあとは、ここへ移動し海水浴をして帰るつもりで、それぞれ水着やタオルも持参していたが、その猥雑な無秩序状態の海岸に足を踏み入れることに、俺は今、抵抗があった。
明日は帰寮のための移動日で、実質的に、今日が自分の地元で過ごす最終日だった。
寮に帰れば、また帰省前と同じ生活に戻る。
帰省前には想定していなかったことだが、ここで俺は、西野に対して、家族といるときの、他の友達には見せたことのない素の自分をさらけ出し、西野はそれを柔らかく受け止め、心地よく包んでくれていた。
ここで西野と築いたこの甘美で親密な空気は、しかし、これからの日々の生活の中で、また徐々に薄れ、ついには霧散してしまうのだろうか。
俺は西野を決して失いたくない、俺のそばにいつまでも留めておきたいと思い始めていたが、俺がどうあがこうと、自分ひとりの意思ではどうにもならず、失われるときには失われる気がした。
だから、せめて、誰にも邪魔されずふたりきりでいられる、今、この瞬間を大切にしたかった。
俺は、思ったより混んでいるから、海はやめないか、他にちょっと寄りたいところがある、と提案した。西野は、自分ももっと静かなところに行きたいと同意してくれた。
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