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第四章 夏の終わり(7)
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ずっと自分の心の中だけに閉じ込めていた秘密を、西野の手で今、目の前にぱっと開いて見せられて、俺は激しく動揺していた。
胸を強く押されたような衝撃を感じて、俺は、深くため息をついた。そして、
「親父に、まだ話したことないんだ。親父が俺の将来についてどう考えてるのか、わからなくて。俺、怖いんだ。会社を継いでほしいって言われるのも、もちろん、怖いけど、お前の好きにしていいって言われるのも、家族の輪から突き放されるみたいで」
と西野に自分から、長い間ずっと心にあった一番の悩みを打ち明けた。
西野はベッドに腰かけていた俺の隣に自分も腰を下ろし、俺の背に腕を回した。そして、
「お父さんは、嶋田がしたいことをわかってくれるし、それは、嶋田のことが何より大事だからだよ。家族として」
と言った。すでに親父を知る西野の言葉は、一言一言が真摯で慈しみ深く、俺の長年の憂いを溶かす力に溢れていた。
「そうだな。俺もそう思う。ありがとう」
俺は自分の隣に座った西野を見つめ、その手を取った。
「西野」
俺は、膝の上で、西野の手を自分の両手にぎゅっと握り込んで、言った。
「お前、どうしてそんなに俺を知ってるの?」
西野は迷いなく、答える。
「俺が嶋田を好きだからだよ」
俺は、西野の手を握り込んだまま、西野の顔に自分の顔を近づけ、そっと口づけた。そして、祈るように言った。
「ずっと、俺のそばにいてよ」
「うん。ずっといさせて」
西野はそう言って、いつか美術の教科書で見た、キリストを抱くマリア像の彫刻のように、俺の頭をぎゅっと自分の胸に抱いた。
それは、俺にとって、それまでで一番、西野の心を身近に感じた夜だった。
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