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第六章 海音寺(7)
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その台詞に、俺は少し驚き、
「よく知ってるね」
「みんな知ってるでしょ。嶋田が、あの、嶋田興業の御令息だってことは。親父、中卒なんだっけ?」
鼻で笑うように言われ、俺は一瞬、かっと頭に血がのぼったが、それを抑えて、
「俺、お父さんにもお会いしたけど、とても素敵な方だったよ」
と静かに返した。すると、海音寺は面白そうに、
「へえ。もう家族ぐるみの付き合いなの?家族公認?」
「そんなわけないだろ。俺、ご家族に、ご迷惑かけるつもりはないよ」
俺が思わずそう口走ると、
「ふうん。引き際はわきまえてるって?」
そんな冷めた言葉で、海音寺に、胸中にそっとしまってあった思いをずばり言い当てられ、俺は言葉に詰まってしまった。そんな俺をじっと見つめながら、海音寺は続けて、
「そうだよな。釣り合わないよ。
お前が嶋田に惚れるのはよくわかるよ。あいつ、全然嘘も影もなくて、360度きらきらしてるもんな。
でも、嶋田がお前に惹かれたのは、ただそういうタイミングのときに目の前に、たまたまお前がいただけで、別にお前じゃなきゃいけなかったわけじゃない。お前が選ばれたのは、運がよかっただけだよ」
と言った。
どうして、こいつは。
俺は思う。
どうして、こんなに、俺のことを知っているんだろう。
俺が返す言葉もなく、唇を引き結んで黙っていると、海音寺は俺の顔を覗き込んで、
「悪い。傷つけちゃった?」
と少しも悪いと感じてなどいなさそうな顔つきで言い、それから、
「まどか、ほんとに俺とつき合わない?俺だったら、お前、気楽につき合えるだろ。なんなら、嶋田と並行してでも、俺は別に構わないよ。寂しいとき、慰めてやるから」
と、俺の顔に手を伸ばしてきた。俺は、その手を払って、
「もう、仕事の話ないなら、帰るよ」
と席を立ったが、海音寺は
「待てよ。面白い企画があるって言っただろ。その話がまだだ」
と言って、俺をソファへ引き戻した。
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