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第六章 海音寺(10)
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中学3年の初冬ごろ、海音寺の様子が少しおかしくなったときがあった。
話しかけても聞こえないふりで無視されたり、何でもないことで予期しないほど激しく怒り出したり、そうかと思えば、夜中、突然起こされて、口でしてほしいと要求されたり、正直、こいつとはつき合いきれないと感じることが多くなった。
一度、真剣に話し合わなければいけないと俺が考えているうちに、しかし、海音寺は突然、長期休みでもないのに1週間ほど寮を離れ、実家に帰省した。
そして、寮に帰ってきたときにはまたもとの、多少気分にムラはあるが、気さくで冗談をよく言い、少し皮肉屋の海音寺に戻っていた。
のちに、何かの拍子に、俺が、そういえば、あの頃は何かあったのか、となにげなく尋ねたときは、海音寺は、何のこと?とわからないふりをした。
しかし、そのやり取りをした日の夜、なんだかうわの空な様子で、部屋のベッドで俺の身体に触れていたとき、海音寺はふいに、
「ババアがくたばった」
と小さく口にした。俺は、あまりに唐突な言葉だったので、何かの聞き間違いかと思い、「え?」と訊き返したが、海音寺は、「いや。何でもない」と首を振った。口にしたことを後悔している様子だった。
そんなときは、いつもだったら、聞かなかったことにするのだが、その日は、口にしたこと自体は後悔しながらも、俺に聞いてほしいことがあるのではないかと思い、俺は、あえて、「誰が、何だって?」と話を促した。
海音寺は、話すか迷っていたようだが、
「母親が、死んだ」
とぽつりと言った。驚いて、俺は、
「え。いつ?」
「1か月くらい前。だから、帰省したんだ。葬式とかあったから」
なんと答えていいかわからず、俺は
「知らなかった。それは、大変だったね」
とだけ言った。海音寺は首を横に振って、
「全然大変じゃなかった。死ぬ前の方が大変だったから。俺にとっては、明頌に入る前の方が」
そう言って、海音寺は、過去にさかのぼって、母親の話を始めた。
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