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第八章 祭りの後(11)
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そのうち12月になり、世間はクリスマスムードに華やぎ始めたが、嶋田も俺も、あまりイベントごとには関心がない性質で、彼女のいる同級生たちがクリスマスデートの約束やプレゼントの準備に浮かれる様子をしり目に、そんなことを話題にすることもなく、普段通りの生活を続けていた。
ただ、一度、12月後半の日曜日に、ふたりで近所のクリスマスイルミネーションを見に出かけたことがあった。
それは、学校近くのターミナル駅から、500mほど離れた中央公園にかけて続く遊歩道に、何十万ものLED電球が設置されたもので、この時期、テレビや雑誌でもよく取り上げられていて、当日なんとなく思い立って、夕方からふたりで、歩いて出かけたのだった。
聖夜がもっとも近づいた日曜日で、天候も悪くないとあって、そこは想像以上に人でごった返しており、俺たちはその遊歩道にたどり着く前から、そのあまりの人出の多さに、顔を見合わせて笑ってしまったくらいだ。
人とすれ違うのも一苦労といった人波の中、嶋田は自然に、俺の手を取り、俺もそれに対して特にリアクションを返すこともなく、ふたりで肩を寄せ合い、手をつないで歩いた。
イルミネーションは、それだけの人を集めるだけあって、確かに綺麗だった。
でも、俺の意識は、俺の手を握り、俺の隣、ほんの少しだけ前を歩く、嶋田だけに注がれていた。
俺たちは、綺麗だねとかそんな一言の感想さえ交わすことなく、ただ黙って、ゆっくりと、遊歩道に沿って、駅まで行き、そこで来た道を引き返した。
そうして遊歩道の終わりまでゆっくり歩いて、そこで寮への帰路に続く、電飾の消え、暗くなった脇道に入ったとき、嶋田は、なんの脈絡もなく、突然、
「好きだよ」
と言った。そして続けて、
「初めて会ったときより、夏に告白したときより、今が一番、西野を好きなんだ」
と絞り出すように言った。
嶋田のその言葉は、あの夏よりもっと、切羽詰まった告白のように俺の耳に響いた。そうして、きっと緊張して俺の次の言葉を待つ嶋田に、俺は正直に、
「俺も、今、同じこと考えてたよ」
と告げた。
俺たちは目を見交わし、それから、また黙ったまま、寮にごく近くなるまで手を繋いで歩いた。
俺たちは、自分たちでも持て余すほどの互いへの想いを抱え、どうしようもないくらい深く、恋をしていた。
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