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はじめに
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「絡んだ糸」が昨日で完結となりました。
対のような本作ですので、間をおかず、明日から連載開始といたします。
広東語や英語の記載に関してですが、ネットの辞書検索レベルです。つっこみどころ満載かと思いますが、そこら辺は「まあ、仕方がないね。日本人だし。」程度でスルーしていただけるとありがたいです。
(それほど多く出てくるわけではないのですが・・・。)
香港の組織に関しても完全にフィクションですw
BLファンタジーフィルターを通してくださいませ。
それでは明日4月1日から2ケ月と少し、おつきあいくだい。
2016.3.31
せい
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通知で飛んできてみれば、そっけない予告だけかいな!!おいおい
という皆さんの声が聞こえてきたのでw・・・短いお話を掲載いたします。
田倉萌え連盟の方々の妄想を織り込んでみました。一部にしか受けない気もしますが・・・(笑)
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<<夕刻>>
外はあいにくの雨だ。門をくぐる車のエンジン音を耳に止め、玄関に向かう。桜沢が付いているのは百も承知だが、出迎えるのは私の役目であり当たり前の事だ。傘をさし、ゆっくりと車に向かう。
助手席から桜沢が降りたち、後部座席のドアをあけると車内に首を伸ばし何事かオヤジさんに言っている。
『 雨が降っていますので。』そんな事を言ったのだろう。しかし当の本人はドアに手を添えたまま外に立っている。私が傘をさして出てくるのを見越しての行動だ。
雨など降っていないですよ、そんな平然とした顔をしている。この男はこれからもずっとこのスタンスを取り続けるだろう。昔かたぎと陰口をたたかれているオヤジさんの後継者は、それに輪をかけて義理堅い。
僅かに唇が緩んでしまう。何度見ても、この二人の姿は親子にしか見えない。息子として育てた人間は異国の地を求めたとは皮肉なもの。とはいえ、その結果組においての親と子は文字通りの意味になった。それを実感すると、やはり嬉しく思うから表情が緩んでしまう。
「おかえりなさいまし。」
「桜沢がずぶぬれになる前に早いとこ玄関に行くとするか。」
桜沢は何も言わないままだ。
「春の雨は冷たい。身体の芯が冷えちまう。」
「湯の用意はできております。丁度頃合いかと。」
オヤジさんはわずかに唇を緩めた。もう何年になるだろう・・・。25年は確実に流れた時間。その間、私はずっと権田に仕えている。組ではない、あくまでも権田敦義という男にのみ私の忠義が成立している。
敦の文字が持つ意味を考えると、ぴたりとはまる。『手厚い、情が厚い、貴ぶ、正す』
そして『義』が続くとなれば、目の前にいる男そのものを意味する。「のぶよし」という名を呼んだことは一度もない。たぶんこれからもその名を口にすることはないだろう。
「どうかしたか?」
そう言われて返答のかわりに首を横に振る。オヤジさんは何も言わず僅かに私に視線を送ったあと、玄関に足を踏み入れた。
◆
この広い背中が縮む日がくるのだろうか。
石鹸を泡立てたあと、手にとり背中を洗う。なめらかな泡がすべり、彫られた帝釈天の姿が見え隠れする。
武勇の神でありながら護法善神となった帝釈天。内に秘めた武の熱と組を守る力。その裏付けのような彫り物は何度見てもため息がでる。丁寧に塗りこめる椿油によって輝く姿も格別。
「そろそろ色褪せてくるんじゃないか?」
「そんなことにはなりませんよ。」
「田倉の手入れがあればコレの寿命も延びるかもしれんな。」
「こんなに立派な彫り物。色を失わせるなどできるものですか。」
オヤジさんはホウと一つ息を吐き出す。蒸気が漂う浴室の空気が少しだけ動きを見せた。
「俺の背中を見た人間・・・今となっては田倉と桜沢しかいない。時代だな。」
本家に連れてきた頃の桜沢は年齢より大人びていた。まだ中学も卒業していないというのに、思春期特有の輝きはすでに無く、世の中にある暗い光のみが信じられる・・・そんな目をした少年だった。
オヤジさんは「好きなだけここに居ればいい、居場所がないなら自分で探せ。」とだけ告げ、桜沢の目を見据えた。少年はその視線を受止めることができず、思わずといった風に逸らして握りこぶしを握った。握られた手を見て表情を緩めたオヤジさんは桜沢を一人残し奥へと消えた。
「どうしたらいい?」私はそう聞かれるだろうと桜沢の後ろに立っていた。桜沢は何も聞かなかったし、何も言わなかった。
それから本家の動きをじっと観察する少年の姿を目にする毎日が始まった。無駄口をきかず、自分がやるべきことを自ら探し、誰よりも早く動き出す。そうやって少年は自分の居場所を作り、それをみたオヤジさんが若の世話役にしたのは、まもなくのことだ。
その役目を告げるにあたり、オヤジさんは背中を桜沢に見せた。後戻りできない世界に身をおく覚悟があるのかと問いながら。桜沢にこの帝釈天はどう映ったのだろうか。
「今日は桜沢と飲むつもりだ。このあと風呂にいれてやってくれ。」
「承知しました。」
オヤジさんはフフフと笑いだす。
「さっき車の中で言いやがったぞ。縁談は全部断ってくれとな。」
「ほお・・・そうですか。」
「田倉にしごいて欲しいそうだ。ビシビシやってくれ。姐さん修行をよろしく頼む。」
「まだ相手に逢ってもいないのに、よろしいのですか?」
静かに手桶で湯をすくい背中にかけて泡を流す。白い筋が皮膚の上を流れ、鮮やかな色とともに帝釈天の穏やかな顔が現れた。その時のオヤジさんの心情が映る帝釈天の表情。そうですか、逢わずともわかるというわけですね、そしてそれを喜んでいる。
「桜沢に限って俺が文句をつけるような女を選ぶはずがない。」
「私は厳しいですから。根性がないと無理かもしれません。」
「桜沢についていくことを選んだ女だぞ?充分根性があるだろうが。」
「・・・一度お逢いしたほうがよろしくないですか?」
霞のような花を思わせる色白の女が脳裏をよぎった。この世とオヤジさんを恨み毎日を無気力に過ごしていた女。息子をヤクザと無縁な人間にすることだけを生きがいにしていた女・・・。
まだ若頭だったころにオヤジさんが見初めたのは、画家への夢をあきらめきれない男に惚れこんだ智美という女だった。進んでいた縁談を反故にして無理やり連れてきたという経緯はさらりと聞かされただけだ。このような世界にいるからこそ、この世界に生まれたからこそなのか・・・まるで違う場所に居る者を求めたのか。はなから破たんが見えた結婚は幸福とは無縁のものにしかならなかった。
私がここに来ることになった時、若は11歳で母親とともに離れで暮らしていた。
オヤジさんほどの人でも色恋になれば御しきれないという現実。桜沢とて絶対ではないはずだ。
「田倉。」
「・・・はい。」
「桜沢は俺ほど馬鹿じゃない。大丈夫だ。」
見透かされた・・・。
「そろそろあがる。」
「今日は天然のウドが手に入りましたので酢味噌にします。」
「それはいいな。」
もうこの話は無しだというオヤジさんの意志を受け止める。
脱衣所で柔らかいタオルでしっかりと水分をとりのぞき浴衣を肩にかけた。
「そのまま湯につかったらいい。桜沢はシンガリで充分だ。」
「そうさせていただきます。」
背中をむけたオヤジさんを確認し、木綿の薄着を肩から落す。ギシっという音で、まだ脱衣所に留まっている存在に頬が紅潮した。しくじった・・・。
「25年前と同じ・・・だな。色あせてもいない、薄くもなっていない。」
醜い引き攣れた一本の切り傷の痕。自分で見ることのできない背中に存在する過去。
オヤジさんしか知らない私の背中の傷痕。いつもはもっと気を張っているといるのに今日に限って何という事だ。
振り向くこともできず、かといって風呂場に逃げることもできずに私はそのまま立ち尽くしていた。
「それがあるからお前も俺も生きている。」
「・・・はい。」
「俺が背中に背負っている帝釈天より、田倉・・・お前のその痕こそが立派な彫り物だ。俺はずっとそう思ってきた。」
「・・・オヤジさん。」
「俺の彫り物も自分じゃ見れねえ。だがな、お前が毎日見てくれる。互いの背中は真っ新じゃねえが、それが俺達の結びつきでもある。」
「私の背中は醜い。」
「お前の中にも外にも・・・醜いものなんぞ、ありはしねえ。それは俺が一番よく知っている。」
ドアの軋る音とともに足音が遠ざかっていく。私はたまらずしゃがみ込むと背中に手を伸ばした。
そこにあるボコボコとした盛り上がりを触りながら目を閉じた。
ヨロヨロと立ち上がり風呂に足を踏み入れた。揺れた心の内を鎮めなくてはならない。湯につかって身支度をし、椿油を塗り込める。
25年・・・そしてこれからの何年、何十年。
私はあの背中とともに歩み続けるだろう。
私の人生の標は・・・あの背中なのだから。
END
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