アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
777
-
歩に言われた部屋の前に立ち扉に手をかける。数回ノックして返事を待つが返ってくるのは無言。
躊躇うことなくそれを開けた。
明るい教室には誰もいない。どこかに隠れているのか、それとも歩に騙されたのか悩む。
歩が俺に教えたのは『旧校舎』だった。俺とウサギにとって旧校舎と言われて思い浮かぶのは、前まで俺が1人でいたこの教室だけだ。
ゆっくりと中に入り、辺りを見回す。ほとんど物が置かれていない部屋で隠れる場所など限られていて、カーテンの影を見てもいない。
無駄足だったと手をついた窓。そういえばここに来るのはあの日以来だ。
あの、ウサギが俺から離れるのを決めた日。
教師で大人である自分と生徒でまだ子供のウサギ…2人の違いを受け入れた日。
嫌だ、わからないを繰り返すと思っていたウサギが意外にもすんなり受け入れてくれた日。
少し懐かしく、そして切なく、けれどあれも大切な思い出だったと微笑が漏れた。
この窓の前に立ってあいつを振り返り、必死に笑ったことを思い返す。泣きながら去っていく姿は今も忘れられない。
そんなウサギが何を思って俺を避け、何を考え逃げているのかわからない。
完璧にならなくてもいいと言ってもらったはずなのに、また前みたいになってしまう。今度は何が足りなかったのか、どうすればいいのか不安になる。
全開にした窓から風が入り込み、それを受けながら窓枠に手をついた。
髪が揺れて顔にかかり視界が遮られる。長い前髪が邪魔でかき上げ、僅かに瞼を上げる。すると、視界の端に確かに見えた。
窓ガラスに映るウサギの姿、一瞬にして走り去ってしまったそれを振り返る。勢いよく飛び出した廊下には誰もいないけれど、遠くの方で足音が聞こえた。
「あいつ…」
俺を見た時の驚く様と咄嗟に逃げ出したこと。その2つを見て今はっきりと思う。
逃げるならどこまでも追いかけてやる、縛りつけて閉じ込めてやるって言った。そして嘘はつかないって何度も告げてきた。
それでも逃げるなら、お望み通りにしてやる…俺から逃げようなんて無駄だと身体と心に教えこんでやる。
幸運なことに、昼からは空き時間で余裕がある。
「俺を怒らせるとどうなるか教えこんでやる…誰が逃がすかクソウサギ」
足音が聞こえた先を追いかける。旧校舎はほとんど施錠されていて逃げ場は無い…そして昼休みも残り少ない。
それなら教室で待ち伏せした方が早く、効率も良いと思い直して向かう先を変えた。
周りに目もくれずウサギの教室まで早足で向かう俺は気づかなかった。
特別教室が並ぶ静まり返った廊下、暗くひっそりとしたそこを進む俺の腕を何かが引く。
不意をつかれて引き込まれた身体が冷たい床に倒れ、痛みで起き上がるのが遅れた身体の上に何かが乗った。
その何かから香る甘い匂いと伝わる馴染みある体温に力が抜ける。
「はぁ……いきなりなんだよ」
薄暗い部屋に慣れた目が捉えたそいつは、満足そうに笑い、その瞳が得意げに煌めく。
「油断してんじゃねぇぞ、リカちゃん先生」
逃げ回っていたはずのウサギに襲われるなんて想定外だ。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
777 / 1234