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灯されていない電灯と薄らとしか入り込まない陽ざし。暗くも明るくもない部屋の中で俺に跨っていたウサギを見上げる。
一体こいつが何を考えているのやら到底理解できない。
「何から聞いたらいいか…とりあえず俺がここ通らなかったらどうするつもりだったんだ?」
もし俺が別のルートで向かっていたなら、この教室の前は通らない。
計画というには雑な行動に半ば呆れつつ問いかけるとウサギはフンと鼻で笑った。
「俺が教室にいなきゃお前はずっと探すだろ。だってこの後リカちゃん授業ないし」
「よくご存知で…確かに俺は空き時間だけどお前は違うだろ。授業はサボるなよ」
その授業をサボらせてでも連行しようとしていたのは自分のくせに、俺はそれを胸の内に隠したまま続ける。
「ついていけなくなって泣いても知らないからな」
1時間ぐらい受けなくても別に平気だが、一応は教師としてそれらしき事を言ってやった。すると俺を見下ろすそいつは真顔で返す。
「大丈夫だ。次は数学だし、6時間目は英語だから」
「それ大丈夫じゃねぇよな。どっちもお前が苦手な教科だろうが」
「でもリカちゃんの方が教えるの上手いじゃん」
恋人としてこうやって褒められて嫌な気はしない…けれどその反面で俺は教師だ。なかなか複雑な気持ちのまま黙ってウサギを見上げる。
そうこうしているうちに授業開始のチャイムが鳴り、5時間目のサボりは確定してしまった。
「まぁいいけど…俺もお前と話そうと思ってたし。とにかく退け」
「なんで?」
「なんでってスーツ汚れるからに決まってんだろ」
およそ綺麗とは思えない床。そういえばここがどこだったか辺りを見回す。
床に寝そべった状態で見えるのは長机に等間隔に並べられた椅子、その間から見える大きなモニター。ここが視聴覚室だと気づくのに時間はかからなかった。
「おバカなウサギのくせに考えたな」
うちの視聴覚室は2部屋あり、古い方のこちらはあまり使われない。放課後に自習室として開放されることはあっても、授業で使うならもう片方の新しい部屋だ。
皮肉混じりに褒めてやるとウサギはその皮肉に気づかなかったのか少し嬉しそうに頬を緩めた。
場所がわかったところで突然引き込まれた意図がわからない。避けられていたはずなのに今の行動は真逆で、その真意を探るべくウサギの淡い瞳を見つめた。
今度は緩めた頬をほんのり赤く染め顔をそらす。
家出して音信不通なのに見つめられると照れる。飽きられたのか、見限られたのかと不安だった気持ちが薄くなっていく。
汚れてしまっただろうスーツも、冷たく硬い床も関係ない。そんなのを気にするよりも確認したい大事なことがある。
倒れた時のまま投げ出していた両腕を持ち上げ、広げたて手のひらでまだ赤いウサギの頬を包んだ。無理矢理こちらへ向かせて俺は尋ねる。
「なぁ慧君。実家に帰らせてもらいますっていつまで?」
それに返されるウサギの表情は、眉を寄せて目を細めた顔。これを何度も見てきた俺はその意味を知っている。
「そろそろ戻って来てほしいんだけど。じゃないと慧君不足で寂しくて俺が死んじゃう」
「…迎えに来なかったくせに」
やっぱり拗ねて家出したってオチで安心した。
思わず笑ってしまったのは自分の情けなさに対してだったのだけれど、勘違いしたウサギはさらに顔を歪める。
「笑ってんじゃねぇよ。どこまでも追っかけてやるって言ったんだから約束は守れ変態」
「それ変態は関係ないと思う。あと、どこまでも追っかけてほしいなんてお前の方が変態臭いよ」
指摘した俺にウサギは腰を上げ、何を思ったのか勢いよく落ちてきた。いくらウサギが華奢で軽いといっても年頃の男子高校生。それなりの衝撃が襲ってきて噎せる。
咳き込む俺を見てウサギが言ったのは「苦しそうなリカちゃんって普段の倍エロい」だった。
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