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「何笑ってんだよ。バカにしてんじゃねぇ」
そうやって拗ねるウサギはバカだ。バカで仕方ないぐらい手のかかる子なのに…
「慧君のバーカ。嬉し過ぎて笑いが止まらないんだけど、どうしてくれんの?」
俺の言葉を聞いて、笑うなとウサギが怒る。
唇が触れ合う間際にもらった「おめでとう」の一言が何より嬉しくて、今この瞬間、生きていて良かったと心の底から思った。
胸元を這う手。はだけたシャツの合わせ目から入ってきたそれが、たどたどしく肌の上を滑る。触れた指先から伝わる、微かな震えがその行為に慣れていないことを表していた。
「なぁ慧君…それ何してんの?」
そう。この手の持ち主はウサギで、愛撫には程遠い手つきで肌を撫でられているのは俺だ。
誕生日だからという理由で慧君が俺をもてなしてくれるらしいけれど、今されているこの行為は何だろう。
ただ服をはだけさせられただけ。そこに触ってはくれるものの、快感を与えるというよりはくすぐられている気分になる。それでも当の本人は必死に手を動かしていた。
「……綺麗」
俺の両胸に手をついたウサギが呟き、そこに頬を押しあて瞼を閉じた。
目下に見えるウサギのつむじにキスを落とすと、抱き付く力が強くなって背中の骨が軋む。
「リカちゃんってさ、なんか綺麗なんだよな。悔しいけど」
「悔しいってなんだよ。そういやお前俺のことよく綺麗って言うよな」
ウサギからよく貰う『綺麗』という言葉。
正直言って俺はそれが嫌いだ。なぜなら綺麗に見えるように笑って、綺麗だと思ってもらえるように必死だから。
ウサギに綺麗だと言われる度に、そうじゃなきゃいけない辛さに襲われる。
だから俺は『綺麗』が嫌いで『綺麗なもの』に憧れる。
黒く落ちてしまいそうな気持ちを誤魔化そうと茶色く柔らかい髪を指に巻き付けて遊ぶ。やっと顔を上げたウサギと目が合って、珍しくふわっと笑った。
「リカちゃんは俺の目標だから。バカで意地悪で性格悪いし変態だけど綺麗なんだよ」
「なぁ慧君。それ、ほぼ悪口だって知ってる?今の流れで綺麗で目標になる意味がわからない」
「俺だけがわかってるからいいんだよ。俺だけが知ってるリカちゃんだからいい」
そう言ったウサギが胸元で笑うから、熱い吐息がかかって少しくすぐったい。けれど嬉しい。
何も感じなかった頃が嘘のようだ。
今は苦しいも、悲しいも寂しいも。
嬉しいも楽しいも、恋しいも。
たくさんの気持ちが溢れて心が忙しい。その原因は至極簡単なものだ。
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