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卒業前夜
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「だーかーらー!明日の為にあたしがどれだけ頑張ったと思ってるの?!歩ちゃんになんて言われようと、行くったら行くの!」
『来なくていいから。たかが卒業式に休みとるなんて桃さんバカなの?』
「たかがって何?!歩ちゃんの卒業式なんだから、あたしが行かなきゃ始まらないでしょ!」
『…なんでだよ。桃さんがいなくても勝手に始まって終わるってば』
そんな会話を終え、電話を切ったあたしは後ろを振り返った。そこには大量の紙屑に囲まれた友人の姿がある。
「豊、あんたどれだけ書き直せば済むの?」
「駄目だ…これじゃ言いたいことの半分も伝わらない」
「もうその時に思ったこと言えばいいでしょ」
明日、歩ちゃん達は高校を卒業する。
この1年はほとんどデートらしいデートもせず、勉強に明け暮れた日々だった。
合格発表を待っている間のあの緊張感は今も忘れない。自分の時よりもドキドキして仕事が手につかなかったほどだ。
その結果、歩ちゃんは無事合格。けれど、まだどの学部なのかは教えてもらっていない。
明日着る予定のスーツをクローゼットから出し、リビングへ戻ると豊はまだ何かを書き殴っていた。
悲壮感の漂う表情は見るに耐えない。
「あんたねぇ…たっくんに告白するのよね?それじゃ遺書書いてるようにしか見えないわよ」
「告っ…告白。告白…こく、はく」
ブツブツ呟いた豊が机に突っ伏す。
去年の夏に自分の気持ちを自覚してから、未だに気持ちを伝えていない豊。明日こそ、と意気込んできた割にまだウジウジと悩んでいるらしい。
あたしはそんな豊と背中合わせに座り、大きなそれに体重をかけた。
「大丈夫よ。素直になればちゃんと伝わる。たっくんはそういう子だもの」
「わかってる」
「あとは豊が逃げないことね!土壇場になってごまかすのは無しよ」
あたしも豊も、そしてリカも経験した卒業。ここからまた新しい生活が始まる。
もしかしたら隣にいるであろうあいつが1番に緊張しているのかもしれない…だって、明日はリカにとっても勝負の日だからだ。
「ねぇ豊」
まだ背後で唸っている友人にあたしは声をかけた。
「なんだ?」
「色々あったわよねぇ…」
辛い経験もたくさんして、人に言えない悩みもできた。自分を嫌いになった時もあった。それは、あたしも豊も同じ。
みんな違って、けれど同じような悩みを抱えて、それでも別の道をいく。
「でも楽しかったわ。すごく、すごーく楽しかった」
「あぁ」
「明日は泣いちゃうかしら?」
「……あぁ」
返ってきた返事に思わず笑いが零れた。
なぜなら…。
「あんた何泣いてんのよ?!まだ前日よ?泣くならフラれてからにして!」
背後の大男が目頭を押さえ、小刻みに肩を震わせていたからだ。
「もうやめてよ…本当うちの男共は情けないんだから」
「桃、お前も男だと思うが。オカマも法律上は男だ」
「オネェよ!!あんたが法律を語らないで!」
どれだけ泣いても笑っても、その日はやって来る。それぞれの道をいく、運命の卒業式が。
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