アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
卒業式【美馬豊×鳥飼拓海】
-
心臓の大きさは自分の握りこぶし程度らしい。
身長188cmの俺の心臓…握った拳を見つめる。
これが自分の体内で激しく動悸し、口から飛び出してしまいそうなほど跳ねていると思うと不思議な感覚だった。
不思議なのはそれだけじゃない。
今、自分がこの場にいること。父兄の中に混じって座っていることが不思議だ。
「3年5組」
その言葉と共に立ち上がった生徒たち。その中に彼はいる。埋もれてしまう平均よりも低い身長。本人は嫌だ嫌だというそれを俺は一瞬で見つけ出す。
今日も綺麗に立たせた髪。器用な彼がこの先進むのは、華やかで厳しい世界だ。
でも遠くなるとは思っていない。だって俺たちはまだ何も始まっていない。
それを始める為に今、俺はここにいる。
「たぁくん…!!たぁくん!」
少し離れた所から聞こえる涙混じりの声。自分の想い人と似た愛称のそれに俺の意識は向いた。
見るとそこには、俺よりも少しばかり若いだろう青年と隣に小さな女の子が座っていた。
「もう!ひろ君が煩いから目立っちゃってるよ!!」
小さな女の子が青年を怒り、つんと顔を背けた。その横顔は、どこか見覚えがあって、うちの生徒かもしれないと焦る。
「だって…だって、たぁくんだよ?!たぁくんが、俺のたぁくんが卒業だなんて」
「ひろ君のじゃないでしょ?たぁくんは、みんなのたぁくんなんだから。それよりちゃんとビデオ録らなきゃ、さとちゃんに怒られちゃうよ!!!」
本人たちは声を抑えているつもりだろうが、それはなかなかに大きくて周りの視線が集まる。けれど気にしていないのか…気付いていないのかマイペースにカメラを回していた。
「卒業生、退場」
1組から順番に歩いて出て行く。俺はそれを人の輪から離れていたところで眺めていた。
本当はもっと近くで拓海くんを見たいけれど、大きな俺が前へ行くと邪魔にしかならない。
諦めて立っていると、腰のあたりに何かが当たる。
「いっ…いたたた……」
それは、先ほど騒いでいた女の子でその手にはカメラが握られている。
「ひろ君のバカ!!!!!たぁくんが見えないからって七海のこと忘れて前行っちゃうなんて嫌い」
ぷんぷん怒ったかと思えば、その子の眉がハの字になった。小さな肩を落とし、地面を見つめる。
きっと、この場所からだと小さな女の子じゃ見えないだろう。お兄ちゃんの勇士を一目見たいと思うその気持ちに心が動かされた。
しゃがんだ俺は、その健気な女の子に話しかける。
「上に乗って。お兄ちゃんが見たいんだろう?」
泣きそうな目が大きく見開き、ぱちぱちと瞬きを繰り返した後に輝く。
これはもしや…幼女を攫う不審者に見えないだろうか?咄嗟の行動だったが、出過ぎた真似をしてしまった気がして固まる。
そんな俺に小さな手が伸ばされた。
「お兄ちゃん、ありがとう!」
笑った顔がとても彼に似ていて不覚にも胸がキュンと鳴った。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
802 / 1234