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卒業式【美馬豊×鳥飼拓海】
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拓海くんに人気のないと所まで連れて来られた俺は、自分よりも20センチ以上小さな男の子を前にしどろもどろだ。
「待ってたって俺を?拓海くんが?」
「そうだよ。俺、ずっと豊さんのこと待ってたんだから」
ずっと。そう言った拓海くんが胸に飾られているリボンを指さす。
「ちゃんと卒業できたよ。専門学校も決まったし、また次に進める」
次、と言った拓海くんは穏やかな顔で笑う。いつもの騒がしい雰囲気じゃなく、落ち着いた表情で俺を見た。
「豊さんは?ここまで来て帰っちゃうの?」
難しいことが嫌いで、曲がったことも嫌いで、マイナス思考が嫌いな拓海くん。何も考えてないようで、いつも人の数倍頭を働かせているのを俺は知っている。
暴走しがちな歩くんとウサギくんの間で上手くバランスをとっているところを俺は何度も見てきた。
そんな彼が真正面から俺を見て言った。
「豊さん、なるようにするんだよ。自分で行動しなきゃ何も変われないよ」
また魔法の言葉を俺にくれた拓海くんが、着ていたブレザーのボタンを引きちぎった。手の平の上に乗せたそれを俺の目の前に突き出す。
「いい加減にしろよな!俺、ずっと待ってたって言っただろ?!」
「拓海くん…」
「また次が来るかなんて、誰にもわかんないのにそれでいいの?」
やっぱり拓海くんは頭の回転が早い。周りをよく見ていて、人の気持ちに敏感だ。
言いたい言葉はたくさんあって、それをつらつらと書いた手紙だって手元にある。
悩んで悩んで、悩んで書き上げたそれがあるのに…俺の口は勝手に動いた。
「俺は君が好きだ」
本当はもっと気の利いたことが言いたかった。どこが好きだとか、どれだけ好きだとか伝えたいことがたくさんあるのに…それなのに、この言葉しか出ない。
「拓海くんが好きだ」
俺はリカのように何でもしてやれる男じゃない。桃のように人を楽しませることもできない。
ウサギくんや歩くんのように、拓海くんの好きなこと、好きな場所に好きな音楽。どんな時に怒ってどんな時に笑うのかを知っているわけじゃない。
だって俺は俺だから。
無骨で言葉が足りなくて、頭が堅くて融通がきかない。手先が器用なだけの面白味のない男だから。
けれど、こんな俺でも誰にも負けないという自信を持って言えることがある。
「俺は拓海くんが好きだ」
目を閉じた拓海くんの口角が上がって、はっきりと言った。
「3回も言わなくても、初めから知ってる」
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