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卒業式【獅子原理佳×兎丸慧】
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2年ぶりの扉に手をかけ、ゆっくりと横へと引く。ガラガラと音を立てて開いた先は昼間なのに薄暗かった。
窓際の席。
俺が1年生の時に座っていたその場所に人影があった。
生徒用の小さな椅子に腰かけ、足を組んで机に頬杖をついていた男が俺を見て手を振る。
「誰かと思ったら可愛い可愛いウサギちゃんか」
それは、今日も真っ黒のスーツに身を包んだリカちゃんだ。手招きされるがまま隣の席に座り、俺はリカちゃんを見る。
長い前髪を後ろに流し、その綺麗な顔を惜しみなく晒したリカちゃんが目を細めた。左にある泣きボクロが今日もやけに色っぽい。
主役は俺たち生徒のはずなのに、誰よりも目立ちまくっていた獅子原先生と並んで座るのは新鮮だ。
「お前こんなところで何サボってんだよ。今日は職員会議で帰ってくんの遅いって言ってたくせに」
「見回りついでに休憩。慧君こそ1年の教室に何か用?」
まさか手紙で呼び出され、のこのこやって来たなんて口が裂けても言えず、俺は黙る。
ふふっと笑ったリカちゃんが意地悪な顔と声で言った。
「もしかして呼び出されたとか?1年2組の教室で待ってますって、白い手紙で」
「―なっ、え?!」
あの手紙そのものを指す言葉に、俺はポケットに入れていたそれを出す。リカちゃんと白い便箋を交互に見ると、そいつは笑みを深くする。
「ちゃんと来てくれてありがとう。兎丸慧くん」
「は?え…これリカちゃんが?」
「今時、わざわざ手紙で呼び出すなんてないだろ。しかも1年の教室にな」
リカちゃんの字とは全然違う、少し歪んだ文字。きっと敢えて汚く書いた手紙を俺は握りつぶす。
やけに行くことを勧めた歩にも納得がいった。アイツはこの事を初めから知っていて協力してたんだ。
あの時、歩に行けって言われなかったら俺は絶対に無視していたはずだから。
「こんな呼び出し方しなくてもいいだろ?!話があるなら帰ってからでいいじゃねぇかよ」
この所為で1人で帰らなくちゃいけなくなった俺は、責めるようにリカちゃんに文句を言った。すると、当の本人は楽しそうに肩を揺らして笑う。
でも次の瞬間には笑い声が止んでしまう。
「どうしても今日、ここで言いたいことがあって」
2人だけの教室に落ちるリカちゃんの声は静かで落ち着いていて、けれど初めての時よりも優しい。
「全部始まったここで、聞いてほしいことがある」
立ち上がったリカちゃんが、代わりに俺に座るよう促す。その有無を言わせない雰囲気に従うと、何故か頭を撫でられた。
リカちゃんは教卓までゆっくりと歩いて行き、定位置に立って俺を見た。
「これが最後なんだよ、慧君」
本当にこれが最後の時間になる。今日で学校から…リカちゃん先生から卒業する。
「リカちゃん」
「じゃなくて先生だろ?今はまだ」
教卓の前に立つリカちゃんを見るのもこれが最後だ。
1秒でも見逃したくなくて、俺はリカちゃんを目に焼き付けるように見つめた。
机に手をついたリカちゃんが顔を上げる。
「……最後の授業を始めようか」
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