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卒業式【獅子原理佳×兎丸慧】
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しばらくリカちゃんと抱き合い、俺の涙が引いたところで教室を出た。手は繋がない…けれど2人の距離は近い。
まだ校舎に残っていた生徒が正装したリカちゃんを見て赤くなり近づいてくる。そして隣を歩く俺を見て離れる。
その理由がわからなくてリカちゃんに訊ねた。
「なあ…もしかしてバレてる?」
「さあ?どうだろうな」
「どうって。バレたらヤバくない?」
たとえ生徒でなくなったとしても同性であることは変わらない。それを心配する俺にリカちゃんは鼻で笑う。
「大丈夫大丈夫、並んで歩いてるだけだし」
「そう…だけど」
「正直に言っちゃうとさ、卒業式ってすげぇ告白されんだよな。さっきのも多分それ」
リカちゃんのセリフとさっきのヤツの態度に、合点がいった俺の眉が釣り上がる。
振り返って睨みつけて威嚇をすると、俺の頭にリカちゃんの手が乗った。
「こらこら。慧君がそんな事しなくても俺は誰にも靡かないから」
「それでもやだ」
「ったく…うちの奥さんは相変わらず嫉妬深いね」
意地悪く笑ったリカちゃんが自分の薬指を指さす。そこには俺と同じ銀色の指輪が光っていた。
「なっ、お前…っ何してんだよ?!」
「何って指輪だけど。奥さんがしてて旦那の俺がしないって駄目だろ?」
「してる方がダメに決まってんだろ!!」
リカちゃんから奪い取った銀の輪は軽く、すっぽりと俺の手の中に収まった。
偶然見えた指輪の裏側。小さな黒い石と透明の石…2つ並ぶその配色は、今日も俺の手首で揺れるブレスレットと同じ色だ。
固まる俺の手から、指輪を取り返したリカちゃんがそれを空に掲げて笑う。
「こんなに早くバレると思わなかった。慧君、鋭くなったね」
その口ぶりから意図して石を埋め込んだのは明らか。それならばこの指輪も……もしかしてもしかする……じゃなく、きっと間違いない。
そう予測した俺に向かい、今日は格段に甘いリカちゃん先生が小声で教えてくれる。
「これ作るの1年近くかかったんだからな。石取り寄せて、デザインから加工まで俺1人でやったんだから」
「いち…ねん」
「誰かさんが構ってくれないって家出した春からだよ。まさかデザイン画描いてるから入って来るな、なんて言えるわけないだろ?」
そう言ったリカちゃんは妖しい笑みを浮かべ、指輪を胸ポケットにしまう。
「じゃあ気をつけて帰れよ。今日は初夜だから覚悟しててね、慧君」
甘い睦言を落とし、俺から距離をとったリカちゃんが向かうのは職員室。ここからは『リカちゃん先生』に戻る。明日からは俺の先生じゃない。俺はリカちゃんの生徒じゃない。
今ある幸せが失くなるのは一瞬だ。
目を離した隙に、振り返った瞬間に、たった一言の言葉で簡単に消えてしまう。弾みで出てしまった強がりが歯車を狂わし、相手を傷つけ自分を1人にする。
気持ちが大きければ大きいほど失うのが怖い。
急に大きな不安が襲ってきて、伸ばしかけた手。それに気づいたリカちゃんが捉える。
「大丈夫、慧が不安になることは何もない」
どうしてリカちゃんは何でも気づいちゃうんだろう。俺がそう訊ねるより先に答えは返ってくる。
「だって、俺はお前の為に生きてるからね」
その優しい声に見送られ、俺は学校を後にした。
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