アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
3
-
お互い特に何も話さず車は進む。
そもそも俺もリカちゃんも元から口数が多いわけじゃない。何から何まで2人で話して会話が絶えない、なんて関係は俺たちに似合わない。
会話がなくて、趣味も合わないのに一緒にいたいと思えたのはリカちゃんが初めてだ。
そんなリカちゃんは、大学の最寄り駅を少し越えたところで車のスピードを落とした。
てっきりここで降りろと言われるのかと思ったら、どうやらそれは違うらしい。ゆっくりとしたスピードで歩道に沿って走り、やがて車を止める。
少し後ろの方に見えるのは左右に揺れる金色の塊。前方で止まっている俺たちに気づいたそいつは、一瞬嫌そうな顔をした後に車へと寄ってくる。
もちろん小走りでもなく、堂々と歩いてだ。やっと追いついてきた歩が窓から車の中を覗く。
「んだよ……電車で見かけねぇと思ったら初日から送迎付きか。偉そうなウサギ」
朝が弱い歩にとって、この時間は最強に機嫌が悪い。いつも以上に棘のある言葉と視線で俺を射る。
その手が後部座席のドアに触れ、躊躇うことなく開ける。いつの間にかドアのロックを外していたらしいリカちゃんが、ふっと笑ってバックミラー越しに歩に目線を向けた。
「おはよう、あゆ。てっきり桃の家にいるのかと思ったら違ったんだ?」
「……うっせぇ。知ってるくせにわざと聞いてんじゃねぇよ」
「恋人の家に泊まりたいってお願いしたのに断られて喧嘩した挙句、モーニングコールしてくれないかもしれないから起こしてくれって頼んできたのは誰だっけ?うちの弟じゃなかったっけ?」
「てめぇに頼んだ俺がバカだった……うざ」
いつの間にそんな話をしていたのか、どうしてリカちゃんが歩と桃ちゃんが喧嘩したことを知っているのか。
聞きたいことはあるけれど、それよりも気になることが引っかかる。
「リカちゃんのモーニングコールって何?」
訊ねた俺にリカちゃんはニヤリと笑い、歩は片手で顔を覆った。そんな歩からは「バカは黙っとけ」なんて小声も聞こえてくる。
「なんだよ、秘密にしてんじゃねぇよ」
頑固な歩ではなくリカちゃんを睨むと、ニヤリとした顔がニヤニヤに変わる。人に睨まれて笑えるのは性悪の証拠だ。
「やだ慧君。それって嫉妬?俺が他のやつ起こしたから嫉妬してんの?」
「誰がだ!俺はただ、お前がどうやって起こしたか気になっただけで……!」
リカちゃんの起こし方といえば無理矢理に布団を剥ぎ取るか、無理矢理に服を脱がすかだ。ちなみに後者は予定のない休日によくされて、そのままの流れでアレが始まるから起きるのは遅くなる。
俺の知っている荒過ぎる起こし方は直接じゃなきゃ出来ない。それなら電話ではどうやって起こすのか……気になっても仕方ないと思う。
教えろと繰り返した俺にリカちゃんは、にっこりと笑って「ちょっと電話を多めにかけて優しく怒るだけだ」と答えた。
それに歩が秒速で噛みつく。
「あれがちょっとだと?!鬼のように電話してきて、起きるまで永遠続けたのは誰だよ。起きたら起きたで一言目がおはようじゃなく、すげぇ低音の声で埋めるぞって言ったじゃねぇかよ!」
「歩、それ言い過ぎ。寝起きの弟にそんなこと言うお兄ちゃんはいないって」
「言った!あれ絶対に忘れねぇからな!!その後の、遅刻したらお仕置きってくそ寒い台詞も」
歩の言葉に機嫌の悪い理由がわかった気がした。
眠たいだけでなく、寝起きが最悪だったからだろう……可哀想だと思って後ろを見ると、歩と目が合って思い切り睨みつけられる。
「おいこらバカウサギ。他人事だと思ってんじゃねぇぞ」
「俺に絡むのやめろよ……お前が自分で起きないのが悪いんだろ」
俺も起こしてもらった手前、本当は偉そうに言えないけれど。それを隠して歩に注意すると、言い返せないのか黙る。けれど後ろから、嫌がらせのように膝で座席を押された。
もちろん、そんなバカなことをした弟はお兄ちゃんにキツいお叱りを受け、悔しそうに唇を噛む。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
819 / 1234