アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4
-
吸っていた煙草を灰皿に捨てようと、歩が前へと身体を屈める。運転席と助手席の間を遮った歩は、横目で俺を見てため息をついた。
「な、なんだよ」
また何か文句を言われるのか、と歩に問いかける。するとその目は冷ややかに俺を映し、心底呆れた声で返事が返ってきた。
「慧……お前さ、バカなのか?」
「は?」
白けた目の歩が指さすのは自分の首筋。珍しくきちんと締められたネクタイに、閉じた襟のすぐ上にある素肌をトントンと指す。
「なんで見えるところに付けてくんだよ。入学式にキスマーク見せるなんて目立つに決まってんだろ」
指摘されてサイドミラーで首元を確認する。そこには、歩の言った通り赤い痕がくっきりと浮かんでいた。それを付けたのは、もちろん隣の性悪野郎だ。
「いつの間に?!」
肘掛に置かれていたリカちゃんの手を掴み言葉荒く訊ねる。そうすれば、俺の中で非常識な男代表みたいなこいつは、しれっと答えた。
「慧君が眠り姫の時に。唇にキスしても起きないから、うちのお姫様は別の場所をご所望なのかなって」
「んなわけあるか!どうしてくれんだよ!!」
「どうって言われてもなぁ……」
一瞬だけ考える素振りを見せたリカちゃんの口角が上がる。そして流し目で俺を見た。
「別にいいんじゃない?俺のモノだってアピールできるし」
その視線は俺の瞳から首の痕へ、そして指輪に映って瞳へと戻って来る。
「それとも何か問題あんの?」
「問題……って俺はただ、」
少しだけ強くなったリカちゃんの口調に怯んだ俺を、こいつは絶対に見逃さない。眇めた目元が歪み、三日月の形に変わった。
笑ってるのに……怖い。
狭い座席の中で後ずさる俺を見たリカちゃんは、目尻の皺を更に深くさせ掠れ混じりの声で「言っておくけど」と切り出した。
「高校卒業したからって好き勝手出来ると思うなよ。お前が余計なの引っ掛けてきたら、俺そいつに何するかわかんないから」
ぞぞっと身体が震える。リカちゃんの冗談のような本気にビビったのは俺だけではなく、後ろの歩も同じらしい。バカにするようなことは一切言わず、歩は黙って空気になろうとしていた。
答えない俺に、リカちゃんは前を向いたまま念を押す。
「慧君お返事は?」
素直に頷きたくない。俺はお前の言いなりにならないって言いたい……それなのに、リカちゃんによって教え込まれた身体は従順だ。頭で考えたこととは真逆の言葉を口にする。
「俺はリカちゃんだけって……そんなの当然だろうが」
信号待ちで車を止めたリカちゃんが、答え合わせの代わりに触れるだけのキスをした。
日中の、それなりに人の往来のある道路でのキス。たとえ車の中だったとしても、常識では考えられない。
それなのにリカちゃんに耳元で、
「俺の慧君はいい子。帰ったらたくさんご褒美あげる」
なんて言われてしまうと、もう何も言い返せなくなる。
後ろの席から深いため息と共に「バカップル爆ぜろ」と、空気になり損なった金髪が呟いた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
820 / 1234