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入学式は2つの会場に分かれて行われるらしく、俺が向かうのは教育学部がある新館だ。門をくぐったところで旧館に向かう歩と別れ、リカちゃんと一緒に目的地を目指す。
俺がいたから迷わず会場には着けた。しかし問題はその後だ。
入り口で新入生は胸に花をつけてもらうんだけど、なんとリカちゃんも間違って付けられかけてしまった。
いくら年齢にバラつきがあって、いくら周りもスーツばかりだとしても30歳手前で学生に間違われるなんて……お前は大丈夫なのかと聞きたくなる。
それでも、さすがリカちゃんだ。受付のお姉さんが謝っても嫌な顔をせず、自分に付けられた花をお姉さんに付け返していたのを俺はしっかりと見た。
その時に「俺より君の方が似合う」だとか言ってたのは、笑った俺への当てつけだと思う。それを見て俺がムッとしたのを楽しんでるんだろう。
童顔でキザのくせに性格が悪い。
2階の保護者席へと向かうリカちゃんと別れ、俺は適当な椅子に座る。後ろの方の端っこの席。差し込む日差しが暖かくて少し眠気を誘われつつも、周りを見回した。
こうしていると、俺ってマジでコミュ障ってやつだと思う。歩や拓海としか遊ばないし、リカちゃんと付き合ってからは1人で外を出歩くこともない。
他人と触れ合うのが怖い、と思ってしまえるぐらいには人嫌いだ。
特に女。
さっきから目が合っては突然そらされたり、知り合いでもないのに手を振られたり、隣の友達っぽいのと内緒話をしたり……もうやだ。今すぐ帰りたい、もしくはリカちゃん連れてきちゃダメだろうか。
そう考えて、いや余計目立つと結論づけ顔を伏せる。
あのまま学生のフリをさせれば良かった……と内心で後悔していると、隣の椅子がガタッと鳴る。
「ここ座っていい?」
「……あ、え」
「1人だよね?さっきからずっと見てたけど、誰かと待ち合わせしてるっぽい感じないし」
いいかと訊ねたくせに、返事を待たずに座ったのは尋常じゃないほど睫毛の長い女。ワケわかんないぐらい赤い唇に、お前は頭に蛇を飼ってんのかと言いたくなるほど大きく巻かれた長い髪。
一目で『無理』と思った。
そんな蛇女は、なぜか俺のスーツの裾を掴んでいる。
少しだけ触れている爪はキラキラしてて、蛇女から漂ってくるのはクソ甘い匂い。俺とリカちゃんのそれとは全然違う、甘ったるいお菓子のような匂いだ。
匂いと声と、笑い顔と全てが気持ち悪くて固まってしまう。
「ねぇ、何君??ってか、いい匂いするね。香水か何かつけてる?」
「……向こう行って」
「しかもスーツもオシャレ。それって彼女の趣味?」
近づくな。匂いを嗅ぐな。俺に触るな。言いたい言葉が溢れて喉の奥で渋滞を起こす。
それなのに蛇女は、しつこく名前を聞き出そうと、俺の顔を覗きこんでは張り付けた笑顔を寄せてくる。
人の話を聞かない蛇女に俺の苛立ちと嫌悪は増して、頂点を突き抜けた。限界が早過ぎると言われようが関係ない。俺は女が大嫌いなんだ!!
「触んな!」
周囲の視線も、椅子が倒れることも気にせず勢いよく立つ。驚いた蛇女の目が更に大きくなり、驚愕の表情で俺を見た。それを無視して会場を出る。
もうやだ……帰りたくて仕方ない。けれど、帰るにはリカちゃんに説明しなきゃいけない。
知らない女に絡まれて、怖くて気持ち悪いから連れて帰ってくれ……なんて死んでも言えない。
どうしようと頭の中で何パターンも言い訳を考える俺の目の前に、真っ赤な塊が現れる。
「なあ、もうすぐ入学式始まるけどサボり?せやったら俺も一緒してええかなあ?」
俺の顔を覗きこんだ赤い毛玉は、なぜか人間の言葉を喋った。
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