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赤い毛玉は俺の目の前で揺れながら「なあなあ」と話しかけてくる。ここで毛玉のお化けに絡まれるか、会場に戻って息を潜めるか…考えて出た答えは戻るだった。
だって女は嫌いだけどお化けはもっともっと嫌い。嫌いどころじゃなく大嫌いだ。
毛玉を無視して小走りで会場へと戻る。さっきの席にはまだ蛇女がいたから、気づかれないよう反対の席を探した。
出来るだけ女がいなくて、でもって目立たなさそうな端。空いていた椅子に滑り込む。まだ式が始まってもいないのに疲れてしまい、ぼそりと呟く。
「大学にお化けとか……ありえねぇ」
全て見なかったことにしようと、頭の中から赤いアレを消していく。そんな俺の肩に誰かの手が乗り、親しげな声がかけられる。
「嘘やん、ここお化け出んの?」
「嘘じゃねぇよ。俺さっき真っ赤なお化け見……た……、え?」
俺は今誰と喋ってるんだろうか。
ここに歩はいないし、リカちゃんなわけは当然ない。
恐る恐る視線だけを声がする方に向けると、そこには振り払ったはずの赤い毛玉が居た。
「おっ、おばおば……おばっ!!!」
「ちゃうって。男やから!せめておっちゃんにして」
「お化け、赤…毛玉のっ、お化け」
「あー、そっちかぁ……って、生きてるわ!!!」
俺がお化けだと思った赤い毛玉は、そいつのもじゃもじゃな頭だった。
目元まで覆われた前髪に、肩まで伸びた襟足。長くて多い髪の毛は、根元から毛先まで真っ赤に染められており、一見すると赤い毛玉で間違いない。それか赤いモップだ。
けれどよく見ると、その毛玉には身体があって、ちゃんと服を着ている。大半が黒や紺のスーツの中で何故か真っ白のスーツ。
赤い頭に白いスーツ。1人で紅白してんのかよ、と心の中でつっこむ。
「サボり仲間やと思って話しかけたら逃げるし。式なんか出る予定無かったのに、咄嗟すぎて追いかけてもたやん」
「……あんな話しかけられ方したら誰だって逃げるって。マジでビビった」
「そう?俺なりに親しみ込めてんけどなぁ」
ケラケラ笑った毛玉に回りの視線が集まる。みんなギョッとしてすぐ目をそらすのは、こいつがあまりにも異様だからだろう。
「お前、目立ってんな……」
嫌味がちに言うと、毛玉は見えている口元だけを楽しそうに歪ませる。
「そういう君もな。あ、俺は蜂屋。蜂屋幸……幸せって書いてサチって読むねん」
「俺は兎丸慧。ウサギに丸で兎丸」
蜂屋は宙に俺の名字を書く。それに頷くとニッと笑った。長い髪の所為でやっぱり口元しか見えなくて、すげぇ怖い。
俺は知っている。こういう笑い方をするヤツにマトモなのはいないということを。
「ウサマルやな!!俺のことはビーちゃんとか、ハッチーとか好きに呼んだらええよ」
「絶対やだ!!!」
そう俺が怒鳴って言い返すと、蜂屋は頭に両手を当てウサギの耳を作る。それを前後に動かし「怒っちゃ嫌ぴょん」と笑った。
見た目も中身も、コイツは可笑しい。こんな目立つヤツと極力関わりたくなくて俺は前を向いた。すると不意に肩がツンツンと突かれる。もちろん相手は蜂屋しかおらず、当然のようにそれを無視する。
「なあウサマル」
「……」
「ウサマルってば」
「…………」
「別にええけどファスナー全開でパンツ丸見えやで」
「なっ!!……って見えてねぇよ!!」
まんまと騙された俺は蜂屋を睨み、またコイツを喜ばせてしまう。式が始まっても蜂屋は俺に話しかけ、それは終わるまで続いた。
閉会の挨拶が終わり、この後は学部ごとに説明会みたいなのがあって、それを聞いたら今日は終わり。
リカちゃんは適当に時間を潰して待っていてくれるらしく、重たい身体を奮い立たせて指定された部屋まで1人向かう……なのになぜだ。
「お前っ……ついて来んな!」
なぜか俺の隣にはまだ蜂屋が居た。
こいつの名前は幸なんかじゃない、俺にとっては不幸だ。
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