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「そんなアホなことして恥ずかしないん?あぁ、もしかして恥ずかしいって意味わからんかったりする?」
見えていた蜂屋の唇が流暢に言葉を紡ぐ。
今、俺の目の前で起こっていることは何だろうか。
ヘラヘラ笑って俺をからかっていたバカな毛玉が、自分より一回り大きな男をねじ伏せている。その喉を腕で押しつけ、思いもよらない暴言を吐いた。
それがわかってはいるんだけど、脳内処理が追いつかない。
「モテへん男の僻みは醜いなぁ……不細工な顔しとんやから、せめて心は綺麗にしとかないつまでも童貞やで?可哀想に」
とどめをさす赤毛玉に、周りの視線はものすごく集まる。このままじゃ警備員でも呼ばれかねない、と俺は毛玉を引っ張り男から離した。
その拍子に、男は壁を伝って床へと崩れ落ちる。
「蜂屋!もういいからやめろって」
「あ?良くないやろ。こういう奴はとことんシメな俺の気が済まへん」
「俺がもういいって言ってんだろ!」
怒鳴ると毛玉の動きが止まる。静まり返った廊下を見回した毛玉は、だるそうに前髪を掻き上げた。
その時初めてもじゃ髪に隠された顔が現れる。今の言動から、キツい外見を予想していた俺のそれは、見事に裏切られることとなった。
垂れ気味の二重瞼に、すっと通った鼻筋。優しさを感じさせる瞳は赤みがかった茶色で、それと同色の整えられた眉。
赤い毛玉の正体。それは……それはもう驚くほどに男前だった。普段リカちゃんで鍛えられている俺でも認めるぐらいに。
はあ、と深いため息をついた元毛玉はしゃがみこみ、座りこんだままの大男に顔を突き出す。
「ええか?もし何か文句あるんやったら今度からは俺に言え。ほら、こんな目立つ外見しとんやから覚えたやろ?」
そこで一旦言葉を切った蜂屋は、その整った顔で微笑む。より垂れた目元は優しさを十分に含んでいた。
それなのに開いた口から出た言葉は優しさの欠片もない。
「せやけど次は遠慮せんから。俺、2回も同じこと言わんから覚悟してな」
男から手を離した元毛玉……もとい、蜂屋は俺を振り返った。そこには尖った感じは一切ない。
「ウサマルはどこの学部なん?」
人懐っこい顔で笑って、俺をウサマルなんてふざけた名前で呼ぶ。それでも蜂屋が俺を庇ってくれたのは明らかだ。
もしやり返すなら自分にしろ、と標的を変えてくれたのは間違いなく蜂屋幸だった。
「……教育学部。はち…………幸は?」
答えた俺に、驚いた幸の目がふんわり和らいでいく。長い前髪を真ん中で分け、両耳に掛けた幸が嬉しそうに言った。
「俺も同じ。ウサマルがおってくれて、めっちゃ嬉しい」
その笑顔が眩しすぎて直視できない。リカちゃんとはまた違う種類の甘い笑顔……ってやつに少し照れる。
幸はスラックスに付いたホコリを払い、放り投げていた鞄を拾った。顔がわかれば、その赤い髪も意味不明な白いスーツも似合って見えるから俺は単純だと思う。
そんな俺と同様に、周囲の幸に向ける視線も『奇妙な男』から『謎の派手なイケメン』に変わっていた。
教育学部の部屋に着き、やっぱり幸と並んで座る。
何が楽しいのか、隣でずっと笑っている幸に小さな声で「さっきは助かった」と言うと、その笑顔が一段と輝いた。
「ええねん。ウサマルは俺の初めての友達やから」
「え、俺たちって友達なの?」
訊ねた俺に幸は力強く頷く。
「俺な、初めての友達はウサマルがええねん」
大げさだ、俺がそう言うと幸は「せやな」と小さく笑った。
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