アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
9
-
幸と世間話をしたり、配られたプリントを読んだりアンケートに答えたり。そんな事をして、やっと帰れる時間になった。歩は既に終わっていて、リカちゃんと合流して待っているらしい。
「幸、俺このまま帰るけどお前は?」
「あー…うん、俺は帰ると寝る時間減るからなぁ……」
「は?」
それがどういう意味か聞く前に幸から連絡先の交換を求められ、有耶無耶になって終わってしまった。そのまま幸は手を振って部屋を出て行き、俺は1人でリカちゃんの元へと向かう。
その道中では誰に見られようと、話しかけられようと無視だ。
やっと建物から出て、指定された喫煙所のベンチが見えた。そこには黒の兄と金の弟が並んで座っていて、まぁ……すげぇ目立っている。
付き合いが長いから忘れがちだけど、歩だってそれなりにモテる。そして今、その隣にいるのはリカちゃんだ。
俺は今まで生きてきて、リカちゃん以上に目立つ男を見たことがない……幸以外には。
けれど、やっぱりリカちゃんは別格だと思った。
目立つ髪色でもなく、目立つ服装でもないのに存在が目立つ。上手く説明できないけれど、リカちゃんは何をしていても、どんな格好でもリカちゃんだ。
こうして少し離れた所から見ても外見が整っているのがわかるし、外面もいいから雰囲気だって問題ない。気慣れたスーツからは清潔感と余裕を感じさせる。
学校で見るのとはまた違うリカちゃんの姿。それを客観的に眺めていると、俺に気づいたそいつが吸っていた煙草を消して手招きした。
声に出さなくてもわかる「おいで」に俺の足は動く。
「お疲れ様、慧君」
「ん」
隣に立った俺にリカちゃんはふわっと笑って、でも触れない。その理由はここが大学だからだ。
「疲れた顔してる…あの赤いのか、それとも誰かに何か言われた?」
会って1分も経っていないのに、すぐ気づくなんてリカちゃんの目はどうなっているんだろう。じっと覗き込むと、真っ黒な瞳が少しだけ蕩けて細まる。
「その様子じゃ赤いやつとは友達になれたんだな」
「なんでわかんの?」
「俺の慧君は感情豊かだからね。あいつに何かされていたら、そうやって黙ってないだろ」
こういう時、やっぱり俺はリカちゃんがいいと実感する。何も言わなくても雰囲気でわかってくれるのは楽だ。
組まれた足の上にあったリカちゃんの手を取る。その左薬指には俺と同じ指輪が存在していて、太陽の光を浴びてキラキラ輝いていた。
「慧」
俺を呼んだリカちゃんが、そっと指輪に触れた。同じデザインの自分のそれと合わせると、小さく金属が鳴る音がする。
まるで指輪同士がキスしているみたいだ、と思ったのは当たっていたらしい。
「本物は車に戻ってからな」
そう言ったリカちゃんが自分の唇を指さし微笑む。それに小さく頷き、今度はおれから指輪をぶつける。
するとリカちゃんの唇はもっと薄くなり、綺麗な弧を描く。
「やっばぁ……なんかドキドキした」
「リカちゃんが言うと変態っぽい」
「そう?でも慧君限定だから許して」
そんな話をしながら2人並んで歩く。
「……お前らさ、俺の存在忘れてんだろ」
後ろから聞こえる呆れた歩の声。それよりも早くリカちゃんと2人になりたい、疲れ切った俺にはそれしか考えられなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
825 / 1234