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「ウサマル、おはよ」
肩を叩かれると同時にかけられた声は幸のものだ。
入学式から2週間ほど経ち、今のところ俺は無遅刻無欠席で大学に通えている。もちろん幸以外の友達はできていない。
今までならこの時期は、リカちゃんが構ってくれない、忙しくて相手をしてくれないと文句を言っていた俺だが、今年は違う。なぜなら、今年は俺の方が自分のことで手一杯だから。
時間割が決められていた高校と違って、大学は自分で時間割を作らなきゃいけない。卒業までに決められた単位をとって、必修科目も受けて、そして選択科目も選んで……もう頭がパンクしそうだ。
なんとかリカちゃんに手伝ってもらって登録しても、人気の講義は抽選とかあってエラーで返ってくる。そうすればまた考え直さなきゃいけない。
そんな作業を毎日のように続け、ヘロヘロになってベッドに潜る。そしてすぐ眠る。
今の俺は構ってほしいじゃない。助けてほしいが正しい。
「なんや、朝やのにウサマルは暗いなぁ」
「お前はいいよな……1発で登録済んだんだから」
恨みを込めて言うと、幸は「あー…」と唸った後、苦笑いを浮かべた。
「まだ決まってないん?見せてみ」
俺の手元にあったプリントを奪い、幸が目を走らせる。その横顔は真剣だ。
「ウサマルは選択国語やろ。ほんじゃ、こことここ入れ替えて……で、空いた時間に国文学入れれば?そしたら俺と同じ講義出れるし」
幸に言われた通りにしてみると、今まで悩んでいたのが嘘のように解決した。それをすぐにネットに打ち込み、申請する。
「すげぇな…お前見た目はバカっぽいのに」
「えー、手伝ったのにその言い方はないやろ。まあ、可愛いから許したるけど」
幸は話せば話す程、不思議なヤツだった。
すっげぇ格好つけて学校に来る時もあれば、別人かと思うぐらい野暮ったい時もある。それこそ双子の別人がなりすましてるんじゃないか、って言われるほどギャップがある男だった。
でもそれは外見だけの話で、幸の中身はどんな格好をしていても変わらない。
「そういや、言うてた彼女ちゃんの誕生日、上手くいったん?……あ、その顔は言わんでも成功やな」
そう言った幸は俺の返事を聞かず、欠伸を連発する。
リカちゃんと付き合っていることはすぐにバレた。だって俺は、左薬指に指輪をしているからだ。
相手もいないのに、そんなところに指輪をする男なんて聞いたことはない……そして俺が普段から付けているのはブレスレットぐらいで、アクセサリーが好きなんてこともない。
彼女の名前はなんだ、何歳だ、どんな子だ……止まらない幸の質問に疲れた俺は「リカちゃんで年上、一緒に住んでる」とだけ答えた。
あとは言いたくないと言えば、幸はそれ以上は聞いてこない。
口数は多いけど聞かれたくないことには突っ込んでこない、けれど1度言ったことは覚えている。それが蜂屋幸。
とにかく幸は不思議で、けれど居心地のいい男。歩や拓海とはまた違う、どちらかというとリカちゃんと桃ちゃんを足して割った感じが近いと思う。
そんな幸の不思議な余裕を感じるのは、特にこんな時だ。
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