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やっと1日を終えて大学を出る。途中でふらっと消えた幸は戻って来ることはなく、今の俺は1人きりだ。
大学の中央にある広場を抜け、門へと向かう途中。後ろから突然首を抱えられ、無理に歩くスピードが早められた。
そんな強引で非常識な事をするのは、1人しかいない。
「歩……、お前いきなりなんだよ!」
「うるさい。いいから黙って歩け」
「は?理由は?!」
離せともがく俺に焦れた歩は、首に手を回すことをやめ、次は腕を掴む形に変えた。歩きやすくなったことにより、歩の進むスピードはますます上がる。
ここまでくると歩いているというより、引きずられているに近い。
「ちょっ、転ぶから離せって!」
「今離したらお前あいつらの餌食になんぞ」
歩があいつら、と言って視線を向けたのは後ろから歩いて……じゃなく、追いかけてくる女の集まりだった。きゃっきゃと高い声で歩を呼び、その隣にいる俺を見つけて何故か俺の名前まで呼ぶ。
女の集団は、俺たちを追いかけながらも楽しそうに会話をしていた。一緒に話そう、という声が聞こえたが、そんなに喋ることが好きなら勝手にしていてほしい。
何を話しかけられても無視する俺たちに、その中の1人が鞄からスマホを取り出す。顔の前に固定したそれが捕らえるのは、もちろん俺と歩だ。
「写真撮っていいよね!」
いいわけがない。言葉にしない代わりに睨めば、余計その女の声は大きくなった。
「うっぜぇ」
俺を引っ張る歩は少し疲れていて、きっと教室から追いかけられているんだろう。それは可哀想だと思う、思うけれど人を巻き込むのはやめてほしい。
「なんで女子大があって男子大がないんだよ。どこが男女平等だ、日本の性差別はちっとも改善してねぇ」
「あ、なんか歩から法学部っぽい言葉出た」
「くだらねぇこと言ってねぇで歩けバカ。ウサギなんだから、あれぐらい簡単に撒けよ」
心底機嫌の悪い歩に連れられ、どんどんスピードを上げる。いくら向こうが集団だと言えども、こちらは男だ。意外にも簡単に引き離すことが出来て、駅に着くころには女たちの声は聞こえなくなっていた。
チラリと腕時計に視線を向けた歩は、改札を通ることなく俺に向かって言った。
「慧、兄貴呼んで。疲れて電車で帰るの無理」
「は?そっちの方が無理に決まってんだろ」
「いけるって。もう授業は終わってんだし、お前が呼べばあいつ確実来るから」
確かに授業時間はとっくに終わっていて、リカちゃんは今頃パソコンに向かって事務仕事をしているだろう。ここで俺が頼みこめば、何か理由をつけて定時で迎えに来てくれるとは思う。
思うけれど絶対にしたくない。そんなのリスクが大きすぎるからだ。
それなのに、歩はさっさとしろ、とばかりにふんぞり返って俺を見る。
このままここで言い合っていたら、さっきの女の集団に追いつかれるのは確実で、そうなったら歩の機嫌はもっと悪くなり、俺も嫌な思いをする。
騒ぐ女と静かに怒る歩……しばらく悩んだ末、俺はスマホの着信履歴を開いていた。
普段電話をあまりしないからか、少し辿らなきゃ見つからない名前。フルネームで登録してある名は『獅子原理佳』だ。
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