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無機質な電子音が数コール続き、プツッという音と共に途切れる。その後に聞こえたのは、留守を告げる感情の無い声ではなかった。
『はい、どうした?』
「あっ……あの、俺だけど」
電話口の向こうでリカちゃんが笑った気がした。周りから何も騒音が聞こえてこないってことは、科目室に1人でいるんだろう。そんなリカちゃんが静かな声で言う。
『俺が慧君の声を誰かと聞き間違えると思う?慧君なら、どこで何を喋っていてもわかるよ』
「そういう冗談か本気か、怪しいこと言うのやめろよ」
電話の向こうからは冗談じゃなく本気だ……とか、なんなら今から証明してやるだとか聞こえてくるが、それが嘘か本当かは問題ではない。
1番の問題は、俺の目の前で「早くしろ」と急かしてくる金髪だ。
もう電話をかけてしまったのだから、ここは腹を括って俺はリカちゃんに切り出す。
「あの……さ。リカちゃんにお願いがあるんだけど」
『俺に?何?』
「リカちゃんが、い、忙しいことはわかってるし無理だってのもわかってるし、こんな急に言われても困るってのも知ってるんだけどな!良かったら迎えに来てくれないかなって!!そうだよな、無理、無理に決まって『いいよ』」
一気に言い捨てようとした俺を遮り、返ってきた了承の返事。それに驚いていると、通話相手のリカちゃんがクスクスと笑いながら口を開く。
『お前が、電車で帰るのが面倒くさいから来い、なんて言うタイプじゃないことはわかってるし。どうせ歩に言われたか、大学で財布ごと定期を落としたかだろ』
「あ……まぁ、そんなとこだけど。よくわかったな」
『だから慧君のことなら何でもわかるって。もう少ししたら出るから、どこかで時間潰せるか?』
大学の近くにあるファミレスで待ってる、そう言うとリカちゃんは「わかった」とだけ答えて電話を切った。
覚悟していた嫌味も、無理難題な交換条件もなくスムーズに事が進み、俺は肩透かしをくらった気分だ。
座っていたベンチから立ち上がった歩が隣に立つ。
「兄貴なんて?」
「1時間かからず来れるって。ファミレスで時間潰すことになった」
「へぇ、ついでに晩飯も食わせてもらお」
歩と一緒に待ち合わせのファミレスへと向かう。
やっぱり、どうもすんなり行き過ぎて納得ができない。けれど注文したロールキャベツを目にすると、そんなことはどうでも良くなった。
トマトソースで煮込まれたロールキャベツ……俺はコンソメ味で、細かく刻んだニンジンが隠されている、誰かさんの作ったそれの方が好きだ。
あまり美味しいとも思えないそれを食べながら、何度も時計を見る。そういえば……方向音痴のリカちゃんが、この店を見つけられるんだろうか。
それが心配になって、余計に箸が進まない。
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