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先に歩を送り届け、マンションに戻ったのは夜の9時を過ぎた頃だった。
一緒に住み始めて1年。それだけ経てば結構慣れたもので、どちらともなく玄関の鍵を開け、中へと滑り込んで内鍵まで閉める。
別々に住んでいた時は開けっ放しだったそれも、今ではきちんと閉める癖がついた。
テーブルに上着を放り投げ、鞄を床に転がす。そのままソファにダイブしようとした俺の身体が、後ろから伸びてきた長い手によって止められる。
「慧君、寛ぐ前に風呂入って。お前そのまま寝ちゃうだろ」
「あー……うん。ってかお前晩飯は?」
俺や歩と違い、リカちゃんがファミレスで口にしたのはコーヒーだけだ。
もう夕飯時を軽く超えている。どうするのか問いかけた俺に、リカちゃんは首を振った。
「今日はもういいや」
「いいやって何も食べないのは身体によくないって。お前普段から小食なんだし」
「あとで軽く摘まむから大丈夫」
そう答えるリカちゃんは、俺が一緒に食べなきゃ飯を抜くことが多い。自分のことに関しては驚く程無頓着なヤツだと思う。
ちっとも俺の話を聞こうとしない問題児は、渋る俺を脱衣所に押しこめ仕事部屋へと消えてしまった。
仕方なく温めのシャワーを浴び、ラックに積まれたバスタオルを手に取る。
形を揃えて綺麗に並んでいるのは、リカちゃんが畳んだ方。バラバラに積み重ねてあるのは俺が畳んだもの。
こうして見ると、性格の違いが一目瞭然だ。
リカちゃんは俺に掃除や洗濯を強要しない。気づいたら終わっていて、たまに気が向いて俺がした時は褒めてくれる。すげぇ雑で、リカちゃんの足元にも及ばないレベルなのに怒ったりしない。
今の快適な生活は、リカちゃんがいて成り立っていると思う。
朝起こしてくれるのも、飯の準備も掃除も洗濯も、ゴミ出しもリカちゃん。俺がする事といえば、観葉植物に水をあげるぐらいだ。
俺がいないとダメだってリカちゃんは言ってくれるけど、それは逆だ。
まともに時間割すら組めない俺のどこがいいのか……はぁ、と深いため息をついてケトルのお湯が沸くのを待った。
自分の分のココアと、リカちゃんの分のブラックコーヒーを持って仕事部屋へと向かう。高校生の頃は、絶対に入れてくれなかったあの部屋も、俺が卒業すると同時に自由に出入り出来るようになった。
もう俺はリカちゃんの生徒じゃないから。そして、リカちゃんは俺の先生じゃないから。
こうやって2人の関係は少しずつ変わっていく。
「リカちゃん、コーヒー」
開けたドアの隙間から部屋の中を覗く。パソコンデスクに座り、画面と向き合っていたそいつが振り返った。
「ありがと。おいで」
スーツを着替え、コンタクトを外したリカちゃんの瞳が眼鏡の奥で和らぐ。それに手招きされるまま部屋の中へと進み、俺はデスクの傍に立った。
「仕事、まだ終わんねぇの?」
「あー……これは仕事っていうか、まあ仕事といえば仕事なんだけどな」
珍しく歯切れの悪いリカちゃんが、俺に向かって薄い紙の束を手渡した。3枚綴りのうち、1枚目に俺の知らないヤツの名前と写真が載っている。
これは誰だと視線で訴える俺に、リカちゃんは苦笑して答えてくれる。
「2年の鹿賀って生徒。去年の冬から不登校になっちゃってるらしい」
「それがリカちゃんと何の関係があんの?お前また1年2組の担任だろ?」
俺たちが卒業した後、当然のようにリカちゃんは新1年生の担任になった。だからこの鹿賀ってヤツが不登校だろうが、リカちゃんには無関係のはずだ。
それなのにリカちゃんは眉間を押さえて深い息を吐く。
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