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何度か来たことのあるマンションの前。近くのパーキングに車を停めに行ったリカちゃんを待つ俺の心臓は、激しく高鳴っている。
今までなら『歩のお母さん』だった人と今日は『恋人のお母さん』として会うっていうのは、すげぇ緊張だ。初めての経験に何から喋ればいいかわからなくて、頭の中でシュミレーションを繰り返した。
まず挨拶して、でもってお土産はどこで渡すべきなんだろう。玄関っていうのも早すぎるし、けどリビングに入ってからだとタイミングわからないし。
そもそも家に入れてもらえなかったらどうしよう。
そして何を喋ればいいのかもわからない。ここはお決まりの台詞「息子さんを僕にください」って言うべきなんだろうか……あまりにもわからなくて、戻って来るリカちゃんをマンションの影に隠れて待った。
怪しいなんて、言われなくてもわかっている。
影に隠れていると、離れたところから歩いて来るリカちゃんの姿が見えた。俺を見つけたリカちゃんが軽く手を振る。
「慧君お待たせ……って、かくれんぼ?」
「違ぇよ!!」
「そんなところに隠れても、慧君の可愛いお顔が丸見えで意味ないけど。それとも俺にドッキリで抱きついてくれるとか?それならキスも付けてくれると嬉しい」
素晴らしい笑顔でリカ語を喋ったバカは、俺の背中を押してマンションの中へと入った。勝手知ったる要領でオートロックの暗証番号を押し、開いたそれをくぐる。
その動作は流れるようにスムーズなんだけど……視界の端に入ってくる物体に意識がいってしまって仕方ない。
どうしても気になるそれを指さして訊ねた。
「リカちゃん、それ何?」
リカちゃんの右手にはバスケットいっぱいに敷き詰められたバラの花。花束じゃなく、花だけを綺麗に飾り、リボンを巻いてラッピングしてあるそれ。
やたらいい匂いのするその物体に俺の視線は釘付けだ。
俺の指の先を辿ったリカちゃんが目的のものに到達し、ふっと笑う。
「ちょっと早いけど母の日のプレゼント」
「なんでバラ?普通ってカーネーションの花束とかじゃねぇの?」
母の日なんて渡したことのない俺の知識では、贈り物と言えばカーネーションが定番だ。
首を傾げると、それを目線の位置まで掲げたリカちゃんが俺の近くに寄せる。
目と鼻の先まできた色鮮やかな塊からは、嗅ぎ慣れた匂いがした。
「なんか、この匂い知ってる」
くんくん、と鼻を鳴らす俺にリカちゃんは頷く。
「いつも使ってるボディソープの匂い。これは本物の花じゃなくて入浴剤だから」
「入浴剤?花じゃなくて?」
「仕事で疲れてる母さんが癒される時間って言ったら風呂だろ。たまには花でも浮かべて優雅に過ごしてもらおうかと思って」
バラの花束を母親に贈る息子もまあいないと思うけど……その入浴剤をバスケット一杯に集めてプレゼントするっていうのは、よりキザだと思うのは俺だけだろうか。
そもそも男がそういうのに詳しいってどうなんだろう。
そうは思うけれど、花で溢れる姿が似合っているから何も言えない。これが歩だったら罰ゲームか何かだと笑えるのに。
じっとバラの花の塊を見つめる俺の手をリカちゃんが握る。その左手、薬指には今日は指輪はない。俺が嫌だって言い続けたからだ。
けれど指輪の代わりに絆創膏が巻かれていた。
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