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チャイムを鳴らしたリカちゃんの影に隠れて、その瞬間を待つ。ガチャッと扉が開く金属音が聞こえ、次いでそれが空気を切る乾いた音がする。
頭では色々考えて何パターンも練習したのに、俺の身体は自然に動いていた。
「あっ、あの!!これ、つまらない物ですが!!」
90度近く頭を下げ、手土産を差し出す。玄関に上がってから、とかリビングで渡そうとか考えていたのは一気に抜け落ち、まさかの廊下での手渡し。
数秒して、俺の手からその重みは消えた。ひとまず安心したのも束の間、悪魔見習いの声が聞こえる。
「へぇ。お前でもこんな気遣いできたんだ?でも貰うなら現金の方が助かるんだけど」
「……は?」
「まあ腹減ってたし丁度いいか」
ゆっくり視線を上げて見えるのは素足。
リカちゃんのお母さんってば、意外と大きな足してんだな……って、そんなわけない。その足が続くのは、くたびれたスウェットで、その上にはチラリと見える腹。
そこには薄っすらと筋が浮かんでいた。
もうここまでいけば、誰かなんてわかってる。
「つーかさ、普通こういうのって上がってから渡さねぇ?なに俺ん家来るのに緊張してんだよバーカ」
「歩……っ、お前」
「母さんじゃなくて残念だったな義兄さん、じゃなくて義姉さん」
そこにはニヤニヤした顔の歩が玄関に立ち俺を見ていた。
コイツがわざわざ出迎えるキャラじゃないことは、この数年の付き合いで知っている。きっと俺が緊張しているのをわかっていて、からかう為に来たのは明らかだ。
その性格の悪さに行き場のない怒りをぶつけるのは、間近にいる1人しかいない。
「ちょっと慧君、なんで俺を抓るんだよ」
「リカちゃんが甘やかすから、歩がこんなに性格悪くなんだよ!!」
「それ完全に八つ当たりだから。お前後で覚えてろよ」
冷めた目で俺を見たリカちゃんが玄関を上がる。それに続くべきなのはわかっていても、緊張がまた戻ってきて足が動かない。
目の前に立つのは金髪スウェット姿の歩と、初夏らしくVネックのサマーニットにスキニーパンツを合わせたリカちゃん。
その2人が肩を並べて同じような表情を浮かべる。
楽しそうで意地悪で、絶対何か嫌なことを考えてるんだろうな……ってのが丸わかりの顔。
「ほら早く来いよ。お前みたいなの取って食うの、ここの変態教師だけだから」
そう言ってバカにするのが弟の歩。
「え、慧君食べていいなら今すぐ部屋行く?俺はいつでも準備万端だけどね」
悪ノリして嬉しそうなのが兄の理佳。
そんな性悪兄弟の奥で、閉まっていた扉がゆっくりと開く。
「理佳遅かったわね、私てっきり来る途中で彼女と喧嘩でもしたのかと思っ」
言いかけた言葉は切れ、リカちゃんに似た瞳の大きな女性……リカちゃんと歩のお母さんである、桜さんが俺を見て首を傾げる。
「あら、慧くん?」
そうだ。
リカちゃんは今日『一緒に住んでる子を連れて行く』としか言っていない。相手が男で、歩の友達で、元生徒の兎丸慧とは一言も言っていない。
「慧くんと歩と理佳……ねぇ彼女は?」
この場で「それは俺で彼女じゃなく彼氏です」なんて口が裂けても言えるわけない。
曖昧に笑う俺と、不思議そうな桜さんの視線が交差した。
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