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俺は褒められた性格じゃないし、人に優しくなんて出来ないし、笑顔が可愛い……なんてこともない。そんな俺を『天使』と呼ぶ変わった人。
その人は背後から抱き付いたまま、うっとりと言う。
「あぁ、天使ちゃんは相変わらず柔らかいねぇ……私の想像を超えてくる天使ちゃんに骨抜きだよ」
もうここまでくれば、この人が誰かなんてわかりきっている。健全な男子大学生の俺を天使だなんて呼ぶのは、あの人しかいない。
この場にいる全員を凍りつかせた張本人は、何も気にすることなく俺の隣に滑りこんだ。いくら3人掛けのソファといえど、男が揃うと狭い。
さりげなくリカちゃんの方に寄ろうと、腰を上げる。けれど俺はその体勢のまま止まってしまった。
リカちゃんから漂ってくる負のオーラが今までにないほど強く、そして濃く、本能的にヤバいと思ったからだ。
右隣には凍てつく悪魔のリカちゃん。左には微笑む悪魔のお父さん……そして前には我関せずを貫く歩と、お父さんを睨みつける桜さん。
そこでやっと思い出した。そういえば、この2人って何年も前に離婚したんだって。その理由は知らないけれど、別れた2人が揃うのは気まずいんじゃないだろうか……聞きたくても誰にも聞けない。
なぜなら、今ここに俺の味方はいないからだ。
もう5月なのに吹雪いてるんじゃないかと錯覚するほど空気は冷たく重く、どうしていいかわからず俺はリカちゃんの服の裾を掴んだ。
機嫌が悪かったって、リカちゃんなら何とかしてくれると思ったからだ。
その手に気づいたリカちゃんが俺を見る。そして、小さなため息と共に張り詰めていた空気を消し去った。
「なんであんたが居るんだよ。ばい菌オタクはおとなしく顕微鏡でも覗いてろ」
お父さんから俺を遠ざけ、自分の方に寄せたリカちゃんが言い捨てる。すると、そんなの気にもしないのか、お父さんはにこにこ笑って自分の胸を指さした。
「理佳が紹介したいって言うなら、父親である私ももちろん来るに決まってるだろう。それから覗くなら顕微鏡じゃなく天使ちゃんの心の中を覗きたいな」
「あんた相変わらず気持ち悪いな」
「好きな子を知りたいと思うのは何歳になっても変わらない気持ちだよ。いつまでも恋愛していないと老けてしまうからね」
相変わらずのお父さんに、リカちゃんも言い返すのを諦めたのか顔を背けた。俺の中でリカちゃんに勝てるのはこの人しかいないと答えが出る。でも、それは少し違った。
「ところで桜ちゃん、お茶が1つ足りないよ」
テーブルに置かれたグラスは4つ、俺とリカちゃん、そして歩と桜さんの分だ。
自分の分がないと指摘したお父さんに、桜さんの冷ややかな目が向けられる。
「は?飲みたきゃ入れてくれば?」
桜さんのその言い方は歩そっくりで、その冷めきった瞳はリカちゃんに似ている。
けれど2人よりも更に強烈なところがある。
「但し、その節操無しな手で触られると嫌だから紙コップ買ってきてくれる?あと、出来るだけ家のものに触らないで。変な病気、伝染されたくないから」
満面の笑みで言った桜さんが、どこからともなく取り出したのは除菌シート。
お父さんが触っていた俺の首元を、それで拭いてくれた。
「慧くんごめんね、この迷惑ウイルスが付きまとって。あとで滅菌しておくから許してね」
口元だけで笑った桜さんに、俺は獅子原家のドS遺伝子はこの人が元なのだと確信した。
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