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一瞬だけピリッとした空気を打ち消すかのように、お父さんは俺の頭を撫でてくれた。いつものからかう触り方じゃなく、落ち着かせるような触り方は少しだけリカちゃんに似ている。
「リカちゃんに何か言われたとか?」
絶妙なタイミングでこんな話をしだしたお父さんに、俺は訊ねてみる。
「いや、なんとなく天使ちゃんの様子がおかしいなと思って。一応は教育者だしね、気づくよ」
「それじゃあリカちゃんも?」
「さあ?それは理佳本人に聞いてみないと。少なくとも、今回のことであいつから何か言われたりはしていない」
お父さんはリカちゃんのお父さんだけど、別にリカちゃんに言われたわけじゃなくて……だからリカちゃんの味方でもない…そもそも味方とか敵とか関係ないんだけど。
でも、なんとなくお父さんなら俺が何を言ってもリカちゃんには告げ口しない気がした。
そして、拓海よりもいいアドバイスをくれるだろうこともわかった。
「倦怠期なのかなぁって考えてて」
話し始めた俺に、お父さんは黙ったまま耳を傾けてくれる。途中で遮られることのない俺の言葉は、本人には言えないくせに他を相手にするとスラスラと出た。
不満とか、不安とかじゃなく願望まで。
もっと気にしてほしいし、もっと考えてほしい。前のようにあからさまな嫉妬が欲しい。
女々しい言葉が次々と出て、恥ずかしくて拳を握る。「天使ちゃんはバカだね」って言われると思った返事は予想外のものだった。
「その通りなら倦怠期かもね」
「……へ?」
思わず気の抜けた声が俺から出る。すっかり冷めてしまったコーヒーを啜ったお父さんは、軽い咳払いの後、続けた。
「でも、違うかもしれない。それは誰にもわからない事じゃないかなぁ」
その通りなんだけど、そんなの言われなくてもわかってることだ。俺はそういうことを聞きたいんじゃなく、経験者としてのアドバイスが欲しい。
それなのにお父さんは具体的なことは何も言ってくれない。
俺がそう思うならそうだし、違うかもしれないし、でも不満があるなら上手くはいかないよって言うだけだ。
肝心の『どうしたらいいのか』は教えてくれない。
勿体ぶるその姿に唸る。唇を尖らせてムッとしていると、合わさったそれをお父さんが指で摘まんだ。
「ここで大丈夫だって言って安心する?するなら、いくらでも何でも言ってあげる」
お父さんはそう言ってにっこりと笑い、俺の唇を挟んで遊ぶ。アヒル口だなんてからかいつつも、まだ悩む俺に小さなヒントだけはくれた。
「天使ちゃんはね、もっとリカを試すといいよ。たくさん試して振り回して、そして痛感するといい」
「痛感って何を?」
聞き返した俺に、お父さんはふふっと声を出して笑った。
リカちゃんの笑みを黒だとするなら、お父さんの笑みは白だと思う。お父さんこそ天使じゃねぇのって聞きたくなるほど、爽やかに優しく笑って言う。
「それはね、その時になってみなきゃわからない」
その言葉は、俺には全く意味がわからないけど。どういうことか、大学で幸にでも聞いてみようと思った。
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