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翌日のゴールデンウィーク最終日。仕事に出かけたリカちゃんを見送り、その代わりに拓海と歩が家へとやって来た。
そして、なぜか俺は歩に向かって正座させられている。
「で?なに、あのサークルがどうとか、幸以外の友達がなんとかって話」
「そ…それは……」
あの場では特に何も言わなかった歩が、鋭い視線で俺に詰め寄る。その指に挟んでいる煙草から灰が落ち、それをすかさず拾った拓海が身を乗り出した。
「それは俺が慧に言ったんだよ!リカちゃん先生の前で大学の話楽しそうにしてみなって。そうしたら先生の気持ちわかるからって」
「兄貴の気持ちって何?」
「それは……その、なんていうか…まあ、うん」
どもる拓海が視線で俺に助けを求めるが、心の中で謝って伝わっていないふりを決める。やがて諦めた拓海は、俺にリカちゃんを試すようアドバイスしたことを暴露した。
「おいアホウドリ、お前そのバカウサギの横に座れ」
今度は拓海が歩に睨まれ、首を竦めた。おずおずと俺の隣に来て正座する。
ソファにふんぞり返って座っている歩と、正座させられている俺と拓海……家の主は俺なのに。
はぁ、とため息をついた歩は、感情のこもっていない目で俺を見た。
「お前がサークルなんか参加するわけないだろ。あんなバレバレの嘘ついてバカじゃねぇの?」
「う、嘘じゃない!!誘われてはいるし!」
「どうせ全部断ってるくせに。それか無視してんだろ?」
悔しいけど歩の言っていることは当たりだ。
あれは拓海からアドバイスされたことを言ったまでで、実際はそんな予定はない。そもそも、幸以外の友達って言ったけど友達と呼べるほど親しくもない。
「くっだらねぇ」
吸っていた煙草を揉み消した歩が呆れて俺を見下ろす。目線だけ上げた俺は、その冷ややかな友人に訊ねた。
「やっぱり嘘だってバレた?」
「さあな。少なくとも、俺は大学でのお前見てんだから気づいたけど」
「じゃあリカちゃんも俺の嘘だってわかってて無反応だったのかな……」
あの穏やかな笑顔の裏で「強がってるバカウサギ」とでも思っていたのかもしれない。そう考えると、なんて自分は浅はかだったんだろう……と悔しくなる。
けれど、俯く俺とは対照的に歩は淡々と口にする。
「それはないんじゃねぇの。兄貴は信じてると思う」
「……へ?」
「だってあいつ、お前の言うことは疑わないし。慧が黒だって言えば、白でも赤でも黒にする男だろ」
ちょっと歩の言っている意味がわからなくて首を傾げる。すると、隣に座っていた拓海が「どういうこと?」と聞いてきた。
2人して歩を見ると、その黒い瞳はさらに冷たくなった。
「兄貴にとって慧の言うことは絶対なんだよ。俺がどれだけ甘やかすなって言っても、全く聞く耳もたねぇし」
「どっちかって言うとリカちゃんの言うことの方が絶対だと思うんだけど……」
だって何様リカ様だもん。拓海に同意を促せば大きく頷いてくれる。それが、より歩の視線を尖らせ、俺は隠れて拓海の服の裾を掴んだ……そして拓海も俺の服を掴む。
これ以上説明しても無駄だと判断したのか、歩は「もう勝手にしろ」とそっぽを向いてしまった。
俺が言ったことを信じているらしいくせに、何も言ってこないリカちゃん。
これはきっと『倦怠期』の始まりに違いない。頭を抱えて悩む俺に、拓海のフォローにならないフォローと、歩の無言の威圧がのしかかる。
もうここは、あの赤い毛玉男しかいない。歩と同じぐらいモテて、歩以上に恋愛経験がありそうな赤い毛玉……蜂屋幸を頭に思い浮かべる。
「幸!どうしたら倦怠期って抜けんの?!」
連休が明け、挨拶よりも先に俺は幸に聞いてみた。
あまりにも必死な俺に驚いたのか、幸の綺麗な顔が完全に引いていたのはこの際どうでもいい。
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