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「乾杯!!」
名前も知らない誰かの合図でグラスが鳴る。
拓海は少し遅れてくるらしく、なぜか歩から先に始めてろって連絡がきていた。
端の席に逃げ込んだ俺と、その隣に幸。男は俺たちの他に2人いて、それに対し女は5人……みんな少し派手に感じるのは、俺がこういう場所に慣れていないからかもしれない。
「兎丸君って幸君と同じ大学なんでしょ?」
そう聞いてきたのは、俺の向かいに座る茶髪の子。どっかの女子大だって自己紹介されたが、名前すら憶えていない。
「そうだけど」
「いいなー。私も同じ大学にすれば良かった!うちの大学、女ばっかりだもん」
女子大だから当然なのに。それが嫌なら初めから共学を選べばよかったのに、と言いかけた俺を幸が制する。
「ほんじゃ、今度遊びおいで。俺が案内したげるー」
「ほんとに?行く行く!」
「じゃあ連絡先交換しとこ」
すげぇ自然な流れで連絡先を聞き出した幸に驚く。まだ始まって30分程度なのに、もうすでに幸はこの場を自分のものにしていた。さすがホストだと思ってしまう。
「じゃあ兎丸君も」
当然のように俺に向けてもスマホを見せる茶髪女。どう逃げようか悩んでいると、すかさず幸が俺のスマホを奪う。
「ウサマルな、替えたばっかで扱い慣れてへんねん。やから俺からリナちゃんの連絡先教えとく」
言い終えたタイミングで幸がおかわりの催促をしたことにより、話が逸れる。
なんとか連絡先の交換をスルーできた俺は、内心で安心の息をはいた。
別に出会いがほしくて、ここに来たんじゃない。
今日が最初で最後で、また会うつもりなんて無かったから、連絡先なんて交換したくない。
それを気づいているのか、幸は俺のスマホを奪ったまま返すことはなかった。もし次また聞かれても「幸が持ってるから後で」と流してしまえばいい。
「幸、ありがと」
小声で礼を言うと、幸は小さく頷いて俺の背中を撫でてくれる。
開始から1時間ほどして、いい感じに場の雰囲気も明るくなる。幸を中心にみんな楽しそうで、俺は何度か話を振られては短く返事をするだけ。
それでもテンションの上がった周りは、小さなことは気にせず時間は進む。
少し身体が疲れを感じ始めた頃。酒にあまり強くない俺は、酒だとごまかしたジュースを飲みながらメニュー表を眺めていた。
「あ、これ美味しそう」
さっきの茶髪女がいきなり俺の隣から顔を出す。トイレに立った幸の席を陣取り、自分のグラスをちゃっかり持って俺を見た。
「ね、わけっこしよう?」
化粧がしっかりされた顔に、こまめに塗り直してるのか潤んだ唇。花のような匂いを漂わせ、ピンク色のワンピースを着た女はきっと可愛い……はずなんだけど。
俺の全身が「近づくな!」と叫んでいる。
「あと他にも何か頼む?」
その白い手が、次のページを捲ろうとして俺の手に触れた。さりげなく、けれど確実に俺の手を触って優しく撫でる。
「兎丸君って慧君だったよね?ねぇ、慧君って呼ぶから私のことも名前で呼んで」
媚びるような甘い声に勝手に名前を呼ばれ、俺たちの距離はさらに近づく。太もも同士が触れた時に走った、身体中に鳥肌が立ちそうな感覚……もう無理だった。
手を振り払うことを決めた俺が、それを上げるより早く。
「遅れちゃってごめんね」
個室の障子が開き、誰かが入ってくる。
遅れていた拓海がやって来て、俺は救いを求めて顔を上げた。
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