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平然と嘘をつくリカちゃんと、まんまと騙されるみんな。本当のことを知っている俺は、バレないかどうか心配で仕方ない。
けれどリカちゃんはリカちゃんで、どんな質問にも当たり障りなく答えていく。
例えば、仕事は何かと聞かれたら大学院生だって答えたり、好きな音楽も周りに合わせて答える。俺には見せないリカちゃんの一面に驚きつつ、あんまり面白くないのも事実だ。
『うしじまあきよし』それがリカちゃんが使っている名前。
だから俺は間違っても『リカちゃん』とは呼べないし、かといって『牛島』とも『理佳』とも呼べない。よって、俺はリカちゃんに話しかけることは出来ない。
リカちゃんが怖いのもあるけど、どんな感じで話したらいいのかがわからないんだ。
それなのに、目の前の自称25歳はそんなの関係なく俺を見ては微笑んでいる。もちろん、それは口元だけで、目は完全に笑っていない。
視線が合ったら凍るんじゃないか…そう思ってしまうぐらいに怖い。
「兎丸君ってば聞いてる?」
あまりにもリカちゃんを気にし過ぎていたからか、いつの間にか例の茶髪女が戻ってきて俺の腕を掴んでいた。
きっとリカちゃんはライバルが多すぎると判断したんだろう、やっぱり変わり身の早さに呆れる。
「あ、なに?」
無視するつもりだったはずが、突然声をかけられて思わず反応してしまう。するとリカちゃんの目が一層細まった気がした。いや、気じゃなく完全に細まった。
「だから番号教えてほしいなって」
「番号?」
「電話番号とー、あとはIDと。今度一緒に遊びに行こうよ」
にこにこと笑いながら、あり得ないことを俺に聞いてくる茶髪女。その度に俺はリカちゃんを気にしてしまい、その度にリカちゃんの漂わせている空気が冷たくなる。
どうして誰も気づかないんだろうか……その笑顔が偽物なんだって。というより、牛島理佳自体が偽物なのに、誰も疑わない。
どうやってこの場を切り抜けるか考えていると、酔っぱらったのか、1人の女がリカちゃんにもたれかかった。
酒の力を借りて、リカちゃんに近づこうとしていることが丸わかりな行動に、俺はムッとしてしまう。
なんで俺のに気安く話しかけてんの?って聞きたいし、俺のに触るなって言いたいし。すり寄っている華奢な身体を思い切り突き飛ばしてやりたい。
けれど実際は出来なくて、残された手段は睨むだけだ。
リカちゃんなら、さり気なく距離をとってくれる。
親しくもない他人に触らせるなんて、リカちゃんは絶対に嫌がるはず……だったのに。
リカちゃんの手はその女を支えるように肩に回され、隣に座らせてあげた。
それは崩れかけていた女の身体を、ちゃんとした体勢に戻してあげただけなんだけど、俺からしたら気に入らない。
そんなの突き飛ばして「触るな」って言えばいいのに。
なんで俺の目の前で他のヤツに優しくしてんだよ…って言いたい気持ちは外には出せない。
俺はリカちゃんが他の女と話してても、止めることはできない。
だって俺が先に飲み会に来たんだから。
リカちゃんは、困っているはずの俺を助けに来たんだから。
目の前の光景は全く予測していなかったもので、見たくなかったもので、この気持ちは俺じゃなくリカちゃんが感じてほしかったものだ。
なんでこうなった?と思いながらリカちゃんに触れる女と、それに優しく応えるリカちゃんを見つめた。
隣に座る茶髪女の声が頭の中を通り過ぎていくほど、俺はリカちゃんしか見えていない。
醜い戦争を勝ったらしい酔っ払い女が、リカちゃんの隣を陣取る。自分に自信があるのか、上目遣いでリカちゃんを見て微笑んだ。
その笑顔が計算されているように見えるぐらい、今の俺は嫉妬でいっぱいだ。
「牛島君は彼女いるんだよね?」
酔っ払い女が落とした視線の先は、リカちゃんの薬指。
仕事中は付けないシルバーの指輪はリカちゃんの指に堂々とはまっていて、俺は自分の左手をテーブルの下に隠した。
この質問の答えは聞きたいようで、聞きたくない。
リカちゃんは外面が良くて周囲に合わせるから、きっと「いないよ」って答えるんだろう。その後に指輪はファッションだとか言ってごまかす。
それを目の前で聞かされる自分がすごく惨めだ。
「彼女?彼女かー……彼女はいないかな」
リカちゃんの答えは俺の想像通りだった。想像通りなのに、違うことを期待していたからか悔しい。
落ち込む俺とは裏腹に、女は「指輪してるのに」と口では言いながらも、その顔は喜ぶ。
けれど、それはリカちゃんの次の一言で急変した。
「彼女じゃなくて婚約者がいる」
場がしんと静まり返る。
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