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「リカちゃんは俺が理由もなく飲み会なんて来ると思ってんの?俺にだって理由があんだよ!」
リカちゃんの腕の中で、俺は精一杯の主張をする。
俺にだって俺なりの理由があるんだって……きっと、それは俺のワガママなんだろうけど、それでも全て俺が悪いって言われるのは嫌だった。
「理由?あるなら言えば?」
ふっと笑ったリカちゃんは壁についた片手で身体を支え、小馬鹿にしたように笑った。
「あるんだろ?俺に嘘ついてまで合コンになんか来た理由が。わざわざ指輪を外して来た理由がな」
まるで全てを見透かしたかのように、そこには揺るぎない余裕がある。
もう隠しても手遅れな左手が凍えるように冷たい。
「それは……そ、れは」
「それは?」
「言いたくない!!けど、ちゃんとある!!!」
言い切った俺に、リカちゃんの眉尻が上がる。更に悪くなったリカちゃんの機嫌に、若干怯むけど……けれどもう止まれない。
引き返すきっかけなら何度もあった。でも、それをしなかったのは俺の意地だ。
「リカちゃんだって、ベタベタ触らせて楽しそうだったくせに!」
「触らせたんじゃなく触られたんだよ。俺がどれだけ必死に抑えてたか…鳥肌は立つし吐き気もするし」
「嘘つけ。俺はモテるんだぞって見せつけて満足か?!」
「そんなの見せてどうする。お前以外にどう思われようが、なんの興味もない」
あっさりと否定されて言葉に詰まった。受け入れていたくせに、興味がないと言うリカちゃんは矛盾してる。
「リカちゃんの嘘つき」
唸り声でそう言うと、深いため息をついたリカちゃんが前髪を掻き上げた。
「嘘じゃない。あそこで振り払ったら、場の空気悪くするだけだろ」
「だからって…」
「相手は酒入ってんだから相手にしなくていいんだよ。変な躱し方して、もし揉めたら未成年のお前が困るだろ」
そんな風に言われたら何も言い返せなくなってしまう。
どう考えても俺の立場が弱すぎる。もうこれ以上ここにいたくなくて、俺はリカちゃんを睨みつけた。
「とにかく!リカちゃんは先に帰れ!!」
リカちゃんの身体を押し退けようともがく。そのタイミングでトイレの扉が叩かれ、向こうからこちらを呼ぶ声が聞こえた。
1つしかないトイレを、いつまでも独占しておくわけにいかない。
「俺、もう行くから。リカちゃんは時間差で来いよ」
腕の間をすり抜けて出入り口へと向かう。ドアノブに手をかけた俺の手を、リカちゃんのそれが覆った。
「こういうの慧は好きじゃないだろ」
「は?」
「仲良くもないやつと楽しめるほど、お前は器用じゃない」
リカちゃんの言葉にカチンときた。まるで俺が駄目だって言われてるみたいな感覚になる。
「リカちゃんに俺の何がわかんの?大学に入ってからの俺を知らないくせに」
まだ入学して1ヶ月ぐらいだけど、それでも俺なりに色々あって、俺は俺で考えて行動したのに。それなのに、俺の全部を知っているかのような言い方が気に入らない。
「俺には俺の世界があんだよ。なんでも知ってると思うな!」
「そんなのわかってる。わかってるからこそ俺は」
「リカちゃんは何もわかってない!!」
その手を振りほどきトイレを駆け出る。
扉の近くで待っていたらしい誰かが驚いていたけれど、関係なく走り去る。それは途中から早足に変わり、最後はすげぇ重たい足取りになり…すぐに騒がしいあの合コンの場に着く。
そこには能天気に笑う幸がいて、俺を見て右手を上げた。
「お、ウサマル。なんや遅かったな……って、牛島さんは?」
「あんなバカ知らない」
きょとんとしている幸を押しやり、その隣に座る。
ちゃんと時間差で帰ってきたリカちゃんは、俺をチラッと見てから「明日は早いから帰る」とあっさり去って行った。
引き留める声に耳も貸さず、誰にも連絡先を教えず颯爽と店を後にする。
きっとリカちゃんは怒っていて、帰ったらさっきの続きが待っていると思うと、頭の中には「やだ」しか浮かばない。
帰りたくないような、帰りたいような…リカちゃんと一緒にいたいけど、責められたくはない。
悶々と考えるだけの俺は、話の輪に入らずそっぽを向いて時間が過ぎるのを待つ。
予約していた2時間が過ぎ、帰り支度をしてレジへと向かうと、俺の気持ちは決まった。
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