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時間にしたら数秒だと思う。
ほんの僅かな間だけ静止していたリカちゃんは、言葉を理解したのか眉間を押さえて俯いた。その後には深いため息まで零してしまう。
「なんでいきなり倦怠期?ドラマか何かで観た?」
問いかけてくるリカちゃんが「そもそも倦怠期って言葉知ってたんだ」と続けた。それにカチンときて俺は睨みつけてやる。
「バカにしてんじゃねぇよ。俺だって倦怠期ぐらい知ってる」
「でもその意味は知らないだろ。俺とお前を見て、誰がそう思うんだよ」
「俺は思った。リカちゃん冷めてきてんじゃねぇかって思ったから…その……色々と考えてだな」
その結果リカちゃんを試してみた、とは言えないけど。
さりげなく語尾を濁して顔を背けると、片手で頭を掴まれて強引に戻される。
「慧、とりあえず隣座って」
「やだ」
「いいから座れ」
座れと言いつつもリカちゃんは俺を引っ張り上げる。俺が拒否したところで通用することはなく、足元よりも近くなった距離に緊張する。
何て言われるのか不安が6割で、否定してくれる期待が3割。倦怠期かもなって言われちゃう心配が1割。
それが1割ある理由はリカちゃんが笑わないからだ。
笑って「バカな慧君」って言ってくれないから、ますます緊張は膨らむ。
俺に身体を向け、背凭れに肘をついて見つめてくる黒い瞳。何を考えてるのかわからないそれが、じっと俺を映してそらされない。
ゆっくりと伸びてきたリカちゃんの手が、俺の頭に触れる。ビクッと肩が跳ねてしまったけれど、リカちゃんは躊躇せず俺の前髪を掻き分けた。
丸見えになった俺の額を細い指でなぞる。それを疑問に思っていると、一旦離れたその指が勢いをつけて戻って来た。
いわゆる『デコピン』ってやつ。
地味に痛い攻撃に、弾かれたそこを思わず隠す。
「痛ってぇな!!!いきなり何すんだよ!」
「寝ぼけたこと言ってるから、起こしてやろうかと思って」
「起きてるし!!」
まだ痺れている額を摩る。へこんだのではないかと思うほど痛かった攻撃に、少しだけ涙が浮かんできた。
「慧君、反省した?」
それなのにリカちゃんは半笑いで口元を押さえている。それがすげぇ悔しい。
「リカちゃんのDV男。桃ちゃんに言いつけてやる」
「人のことをいつも蹴って殴ってすんのはお前だろうが」
「俺はいいんだよ」
目の前には人にデコピンをし、痛がってるのを見て笑う男。
こんなやつが教師だなんて生徒が可哀想だ。
デコピンなんて30歳近い男がするなんて、おかしい。それでも、リカちゃんの機嫌は少しだけ良くなったのか、半笑いだったのが今は本気で笑っている。
「本当、慧君はワガママ」
「てめぇ…人のこと痛めつけといて次は悪口か?!仕返しする気なんだろ?!次は何するつもりだ?!」
「デコピン1発で反応し過ぎだから。全然反省してないのな」
額を押さえる俺の手を退けたリカちゃんが、覗き込むようにそこを凝視する。そして、自分が弾いた箇所に触れた。
2発目の予感に後ずさりかけた俺を、ぐっと引き寄せる。
逃げ道を封じられ、襲ってくるであろう痛みに強く瞼を閉じた。やるなら一思いにやってくれと願う。
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