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「ところで。急に倦怠期だとか言い出した理由、まだ聞いてないんだけど」
俺の指を1本ずつ撫でながらリカちゃんが言う。
倦怠期じゃないって本人に否定されたから、俺としてはもうこの話はいいんだけど……どうやらリカちゃんは違うらしい。
問題は根本から徹底的に解決していくところは、さすが教師というか。とにかく、理由を話せと空気で告げてくる。
「別に、もうどうでもいいんだけど」
撫でてくる手つきが妖しく感じ、答えた俺はそっと手を引っ込めた。すると今度は髪を弄ることに変えたリカちゃんが俺の毛先を指に巻き付ける。
ツンツン、と軽く引っ張られて先を催促されれば、流すことはできない。
「元はと言えば、リカちゃんが……」
「俺がどうした?」
リカちゃんが俺を放置しがちなこと、あんまり気にしてくれないこと、サークルの話をしたのに反応がなかったこと。
それらを恨みがましく言った俺に、最後まで黙って聞いていたリカちゃんが答える。
「放置してるのは慧君の方だろ。お前、大学から帰ってきてもバタバタしてて、落ち着いたかと思ったらゲームばっかり。それに連絡しないのも慧君。いつも俺から送って、それに一言で返事すんの誰だっけ?無視する時もあるくせに」
「そ……うだっけ?」
「あとさ、セックスの回数が減ったのだって、慧君が先に寝ちゃうからだし。俺がどれだけ我慢してやってると思ってんの?」
片眉を上げた不機嫌な顔をするリカちゃんに、俺の背中を冷や汗が垂れる。形勢逆転って、このことだろう。
「で、でも!!リカちゃんなら、寝てる俺を叩き起こしてでもヤる!」
「そんな事した覚えないけど」
「──え、なかった?」
「慧君が全てで何より慧君を優先する俺が、寝てる慧君を起こすと思う?寝顔を見つめることはあっても、無理に起こしたりなんかしない」
そう言われて今までを思い出してみると、確かに無理矢理起こされた記憶はない。
というよりも、リカちゃんがその気になったら、まず俺を簡単に寝かせはしない。
ということは、全部俺の勘違いだったわけになる。勝手に決めつけ、勝手に怒り、勝手に暴走した結果、逃げたことをリカちゃんは許してくれないだろう。
背中を伝う汗が増えた。
なんとかこの場から逃げようともがく。けれど、後ろから俺を囲った手の力は緩むことはなく「遊びたいなら話が終わってからな」と言われてしまえば終わる。
俺の逃げてしまえ作戦が終わりを迎える。
「慧君、何か言うことは?」
悪い事をしたなら謝る。そんなの小さい子供でも出来るのに、対リカちゃんの時は重たくなる口が開かない。
「ほらほら。こういう時は、どう言うんだっけ?」
毛先で遊んでいたリカちゃんの指が、だんまりを決め込んだ俺の額へと移り、そっと撫でる。
「慧。優しくしてやってるうちに素直になった方が、お前の身のためだと思うよ」
「……っ、脅すなんて卑怯だ!」
「脅してんじゃなくて教えてやってんだよ。ほら、俺って優しいリカちゃん先生だから」
どこがだ。本当に優しいなら、その真っ黒な笑顔はなんど。今にもドSが発揮されそうな笑顔が怖い。
首を竦めて怯える俺の耳元へと、リカちゃんが唇を寄せる。吐息と共に掠れた声で囁いた。
「俺ね、ワガママな慧君も怒ってる慧君も好きだけど、泣いてる慧君を見るのも好き。好きな子の涙目って、本当にたまんないよね」
視線を上げると見える三日月形の唇。
記憶に残る数々の意地悪と、だんまりを決める意地を瞬時に比べた結果、俺は迷うことなくそれを口にした。
「わ、悪かった!!!もう絶対にしないから!」
こうやって今回も俺はリカちゃんに負けてしまう。
けれど、頬にあった手が頭に乗り「いい子」と優しく褒められると、無性に嬉しくなるから……まあ、それもいいのかもしれない。
「リカちゃん、ごめん」
小さな声でもう一度謝った俺に、リカちゃんは「駄目」とも「いいよ」とも言わない。
その代わりに「そういうところも好き」と返事をした。
それは俺が1番求めてた答えだ。
俺の全部を受け入れてくれるリカちゃんはずるい。
怒られるか、見捨てられるか不安でいっぱいだったはずが、今は嬉しくて幸せでいっぱいになる。
これだから、リカちゃんはずるい。
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