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遅い夕飯を済ませ風呂に入り、ベッドの上でのんびり過ごす。明日が土曜日でも朝から仕事のリカちゃんは、俺の隣に寝転んで本を読んでいる。それは俺には絶対に読めない本、つまり全部英語で書かれている洋書だ。
仲直りした後、このままいちゃいちゃタイムかと思いきや、それを邪魔したのは俺の腹の音だった。
リカちゃんの顔が近づいてきたところで「ぐう」と鳴れば、リカちゃんがそっちを優先するのは当然だ。
時間が遅いから楽しみにしていたドリアをお預けされ、それも不満なのに2人の時間で本なんか読んでるのが気に入らない。
あれだけ構えって言ったのに…と、念を込めてリカちゃんを蹴る。すると、かけていた眼鏡がズレたリカちゃんが俺をやっと見た。
「これはDVにあてはまらないのか?」
笑いながら本を閉じたリカちゃんが横向きに体勢を変え、こちらを向く。眼鏡を外さないってことは、まだ眠らないんだろう。
「今のは呼んだだけだし」
「口じゃなく足で蹴って?いくらウサギだからって可愛すぎるよ」
伸びてくる手は、やっぱり俺の髪に辿り着く。リカちゃんによって乾かされたそれは、幸にも褒められた俺の自慢の1つになった。
「……今日は、その……し、ないのか?」
甘ったるい雰囲気にちょっとだけ積極的になった俺は、恥を忍んで聞いてみた。するとリカちゃんは「しない」と即答してしまう。
それが、すごく腹立つ。
「もういい。お前とは絶対しない!試して悪かったって言ったのに、しつこいんだよ!!」
リカちゃんが頭に敷いていた枕を強引に引き抜き、力任せに殴る。1発しか当たらなかったそれは、簡単に止められてしまった。
自分から誘うような事を言った照れと、断られた羞恥と、敵わない悔しさ。
その全てが耐えきれなくて、夏用の薄い掛け布団の中へと隠れる。そんな俺をリカちゃんは、笑いながら引きずり出した。
「慧君が俺を試すのなんて、今回が初めてじゃないだろ。お前は少しでも不安になったら、すぐ人のこと試す癖があるんだし」
自分の腕の中へ、俺を封じ込めたリカちゃんが頭上で続ける。
「慧君が納得いくまで試したいだけ試したらいいよ」
聞こえた台詞が予想外すぎて、身動きできない代わりに視線だけを向けた。
そこにあるのは、嘘でも冗談でもない、本当のことを告げるリカちゃんの顔だ。
「なんで?試されるなんて誰だって嫌だろ」
その嫌なことをしたのは自分のくせに、そんなことは考えず訊ねる。それに対してリカちゃんは嫌味を言ったり、咎めたりしない。
俺が聞いたことの答えを、俺が予測できない言葉で教えてくれる。
「だって俺は慧にしか興味ないから。どう試されても困ることはないし、困らないから嫌とも思わない」
俺の髪に顔を埋めて答えたリカちゃんは、きっと本当にそう思って答えたんだろう。その声のトーンからわかる。
これからも何かある度に俺はリカちゃんを試す。そうするとリカちゃんは必ず応えてくれて、俺の望みを叶える。
そして俺は、自分がどれほど思われているかを思い知る。リカちゃんから向けられる気持ちの大きさは、俺の想像を遥かに超えてくる。
それを聞いてどう思うかは、その時にならないとわからない。言葉にして聞くことは怖いけれど、言葉にしなきゃ伝わらないこともある。
これが、リカちゃんのお父さんがくれた言葉の答えなのかもしれない。
「慧君、そのうち俺に愛され過ぎて窒息しちゃうかもね」
そう言って覆いかぶさって来たリカちゃんを、怖いと思う人もいるだろう。でも、その怖さはオバケや虫と違って何度も感じたい怖さだ。
「リカちゃんってマジで重たい」
素直じゃない言葉とは真逆に、重なる影に俺からも手を伸ばし、そのスピードを速めた。そうすれば、言わなくてもわかってくれるリカちゃんは、僅かにあった2人の距離を埋めてくれる。
俺が抱えていた不安や寂しさ、自分への嫌悪をリカちゃんは容易く取り払ってしまった。悩んでいた数日が嘘だと思えるほど、綺麗さっぱり消えてしまう。
そうなると残るのは疑問だけだ。
「なあ、リカちゃんは俺が大学でサークル入ったり、友達作ったりすんの嫌じゃないのか?」
軽く触れた唇が離れた隙に問いかけると、吐息のわかる距離でリカちゃんが笑った。
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