アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
68
-
目を見開いた桃ちゃんが瞬きを数回。そして、こてんと首を傾げて俺を見た。
「倦怠期?あたしと歩ちゃんが?」
訊ねたのは俺なのに、なぜか聞き返してきた桃ちゃんに頷く。すると桃ちゃんは、小刻みに肩を震わせて顔を押さえてしまった。
「桃ちゃん?」
まさか泣かせてしまったのだろうか。あまりにもストレートに言い過ぎてしまった自分がバカ過ぎて焦る。
おろおろと周りを見回し、どうしようかと戸惑う俺に、俯いていた桃ちゃんが勢いよく顔を上げた。
「やっだぁ!!こんなことで倦怠期なんて言ってたら、誰とも付き合えないわよ」
そこには涙の痕も、潤んだ目もない。ケラケラと笑い、手を振る桃ちゃんの姿があるだけだ。
「俺なら休みの日は会いたいって思うけど」
笑われたことが少し不満で、思わず尖らせてしまった唇。そっぽを向いてそれを隠す俺に、桃ちゃんは「そうねぇ」と話を切り出した。
「会いたくないわけじゃないの。でも、無理をしてまで会わなきゃいけない関係って、あたし達らしくないと思うのよね」
「ちょっと良くわからないんだけど。ただ会うだけなのに無理とかあんの?」
今度は俺が首を傾げる番だった。
会いたいなら会えばいい。遠くに住んでいるわけじゃないんだから、無理することは何もない。
桃ちゃんの言っている意味がわからなくて、答えを促すようにジッと見つめる。
「うーん…説明すると難しいんだけどね。例えば、あたしと歩ちゃんがリカとウサギちゃんみたいな感じだと変だと思わない?」
「俺とリカちゃんみたいなって?」
「歩ちゃんが何事よりもあたしを優先したり、そうじゃなきゃ嫌だって拗ねるあたし」
桃ちゃんに訊ねられて考えてみる。
歩がリカちゃんのようになる姿……。
「桃さん桃さん」って言ってる姿は想像できない。
「できない、かも」
そう答えた俺に桃ちゃんは大きく頷いた。
「でしょ?あたし、リカが相手なら3日で窒息しちゃう。あんなに重たい男に耐えられるなんて、ウサギちゃんを尊敬するわ」
どうやら本気でそう思っているらしい桃ちゃんは、自分の身体を抱いてわざと震えてみせた。その芝居がかった仕草が面白くて、俺は小さく吹き出す。
「ちょっとは元気出た?」
「え?」
「ベランダにいた時のウサギちゃん、なんだか寂しそうだったから」
それで気を遣って家まで呼んでくれた桃ちゃんが優しく笑う。桃ちゃんの笑顔は、春のように穏やかだ。
ふわっと包み込んでくれる感覚に話を聞いてもらいたくなる。
理由を聞いてこない桃ちゃんに、自分から昨日のリカちゃんとの話をした。すると、さっきよりも大きな笑い声が返ってきた。
「リカも災難ね!これだけ溺愛して、ウサギちゃんしか見てないのに倦怠期だって疑われるなんて。普段格好つけて余裕ぶってる天罰があたったのよ」
「桃ちゃん……桃ちゃんは、俺のことバカだなって呆れたりしないの?」
拓海も歩も、リカちゃんでさえ呆れた俺の勘違い。それなのに桃ちゃんは笑うだけで俺をバカにしない。
それが意外すぎて問いかけると、桃ちゃんはきょとんとした顔で俺を見て言う。
「だってウサギちゃんがリカのことで空回りするのなんて、今までも何度もあったじゃない。あたし、ウサギちゃんほど勘の鈍い子っていないと思うもの」
桃ちゃんは見た目も声も、仕草も優しいけど言う時は容赦なく言う。それが的を得ているから言い返せない。
そもそも、元から桃ちゃんに言い返す気にならない俺は黙る。そんな俺の頭に大きな手が乗った。
大きくて硬い手だ。
「桃。それ以上ウサギ君をからかうとリカに3倍返しされるぞ」
背後にそびえたつ壁……じゃなく大きな男の人。俺の頭に乗せた手で数回撫でて、ソファの空いていたスペースへと腰をおろした。
「いくら高いところが苦手だからって脚立ぐらいは平気だろうが。どうしてわざわざ休みの日に、お前の家の蛍光灯を俺が掃除しなきゃいけないんだ?」
桃ちゃんに対してそう言った美馬さんの顔が、あまりにも怖くて怖すぎて、俺は自分が言われたわけじゃないのに姿勢を正した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
884 / 1234