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連休が終わり、普段の生活が戻ってきた。朝起きて大学に行き、幸と喋ったり、時間が合えば歩と一緒に帰ったりする日々。
予想通り、俺には友達なんてできていない。顔見知り程度のやつはいても、友達と言えるのは幸ぐらいだ。
それでも不便はないから気にしない。
「なあウサマル。これどう?似合う??」
今日はホストのバイトが休みらしい幸に付き添い、ショッピングセンターへと来た。幸が入りたいと言った店で手に取ったのはカーキ色のTシャツだ。
珍しく休みの今日もイケメン仕様な幸だが、赤い髪にその色はどう見ても……
「ん?ああ、似合う。お前が着るとマッチ棒みたい」
「…それアウトやん。あかんやん」
ジト目で俺を睨んだ幸は棚に服を戻した。
「ってか俺に聞かなくても、お前の方がそういうの詳しいだろ」
毛玉じゃない時の幸はオシャレなんだと思う。俺だったら絶対に着ない服を着こなし、よく似合っている。
それを指摘すると、幸の視線が俺の手首に移動した。
「ウサマルはな、服は無難やけど小物のセンスがええねん。そのブレスレットとか俺めっちゃ好き」
幸が言うブレスレットとは、リカちゃんに貰った物のことだ。世界に1つしかないオリジナルの物……それを褒められると悪い気はしない。
「ま、どうせ彼女ちゃんの趣味やと思うけど」
「わかってんなら聞くなよ」
「ウサマルは自分のこと褒められるより、彼女ちゃんのこと褒めた方が喜ぶからな。喜びながら軽く嫉妬してんの見ると、なんか嬉しくなる」
ヘラっと笑った幸は店内を見回してから「次行くで」と歩き出してしまった。
こうして店に入るものの、何も買わずに出てしまうから、一体お前は何がしたいんだと思ってしまう。それを幸に聞いてみると、満面の笑みで返事が返ってくる。
「学校帰りに友達と遊ぶの、めっちゃ憧れててん」
「は?なに、お前もしかして今まで友達いなかったのか?」
訊ねてから、それはないなと思った。俺と違って誰とでも仲良くなれる幸だ。友達ができないなんて絶対にありえない。
「ああ、あれか。友達よりデート優先ってやつか」
「なんでやねん。俺、そんな女好きに見える?」
見えると言うより、実際そうなんだから仕方ない。大学でも誰が可愛いとか、あの子の見た目は好きだけど性格が苦手だとか言ってるくせに。
その気持ちを視線に込めると、幸は苦笑してごまかした。
結局、幸が用事があったのは本屋だけだった。
レジへと向かう後ろ姿を見送り、なんとなく文庫本のコーナーへと向かう。店の奥の方にあるそこには、たくさんの本が並んでいた。
タイトルを適当に眺め、視線を移していく。その視界の端に、見慣れた姿を見つけた俺は、そちらへと顔を向けた。見慣れた姿と言うよりも、見慣れた格好と言うのが正しいのかもしれない。
数ヶ月前まで着ていた制服。衣替え前でまだ冬服だけど、ブレザーじゃなくベストを着ている姿。
その男の手が伸び、棚から1冊の本を手に取った。
次の瞬間、俺はそいつの腕を掴み、声をかけていた。
「それ、犯罪だろ」
手に取った本を、鞄に入れようとしていた男の視線が俺に向く。
そいつの瞳や黒い髪……それは、リカちゃんの部屋で1度だけ見たことのある顔。リカちゃんに関係なければ覚えていなかった、特徴のない普通の顔。
その口元だけが、薄っすらと笑みを描く。
「窃盗罪で50万以下の罰金。でも僕は初犯ですし、見ての通り高校生です。この場合は無難に指導だけで済むでしょうね。それが何か?」
そいつの表情と言葉に驚いていると、男の笑っていた唇が歪んだ。本能的にバカにされたと思った。
「もしかして目の前の罪を放っておけないタイプですか?それなら、信号無視をしても注意するんですか?嘘を吐いたら虚偽罪で訴えるんですか?あなたは嘘をついたことも、誰かに暴言を吐いたこともない聖人君子なんですか?」
すらすらと流暢に喋った後、そいつは俺を見てはっきりと言った。
「ここで僕を止めて、善人になった自分に満足したいなら勝手にどうぞ」
あの日、あの時、あの部屋で見た報告書。嘘だろと思うような事ばかりが書かれていたそれ。
実際に会った鹿賀は、それよりも質が悪い少年だった。
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