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リカちゃんと出かけた帰り道。なにやら言い合いをしている2人組を見つけた俺は、そのうちの1人に目が釘付けになった。
おとなしそうな黒髪に、同じくおとなしそうな顔。小柄ってわけでもないけど、逞しくもない身体。そのくせ相手に食って掛かるのは、鹿賀だ。
リカちゃんに言うべきだろうと顔を上げると、俺が声をかけるよりも先に気づいたリカちゃんが駆けていく。
鹿賀の元まで走り寄り、相手と何か話して別れた。
「お前はバカなのか?」
開口一番に鹿賀を叱るリカちゃんの声。自分が言われたわけでもないのに怒られると肩が竦むのは、自然現象だ。
「僕がバカじゃないことは、先生が1番知っていると思うんですけど」
「そういうことじゃない。あんな場所で問題を起こして、通報でもされたらどうする」
鹿賀がどんな理由で言い合っていたのかはわからないけれど、きっとまた難癖をつけたのだろう。そう思った俺は、呆れ混じりに鹿賀を眺めた。
それなのに鹿賀は一向に俺を見ることはなく、リカちゃんと話を続ける。
「通報されたら先生が迎えに来てくださいね。うち、今かなり揉めてるんで」
「なんで俺が迎えに行くんだよ。俺はお前の担任でも、家族でもないだろ」
「僕が先生を指名するからですよ。先生じゃないと帰らない、先生にしか話したくないって言い続けます」
にっこりと笑った鹿賀に、リカちゃんが深いため息を落とす。すっかり存在を忘れられている俺は、気まずさから、どこかへ行こうかと思った。
少し時間を潰して戻って来よう。踵を返すために後ずさった一歩が運悪く小石を踏んでしまい、ジャリ…と鈍い音が鳴る。
「あ、悪い」
謝ってから、別に自分は悪くないのだと思った。けれど話を途中で折られた、2人が同時に俺を見たから黙る。
4つの黒い目が一斉に向き、少し怖かった。
鹿賀と前に会った時も印象が悪いのに、今回もまた悪い。降ってくるであろう暴言に備えていると、意外にも鹿賀は何も言わなかった。
何も言わないどころか、俺をチラッと見て無視をした。
きっと俺のことなんて忘れてしまったんだろう。あれだけのことがあったくせに、簡単に忘れてしまえるなんて、やっぱり鹿賀は性格が悪いんだと思う。
「とにかく。もう問題は起こすな、今すぐ家に帰れ」
対峙する鹿賀に対し、リカちゃんは強めに注意する。ところが鹿賀は頷くどころか、嫌な笑みを浮かべた。
「帰る家がないんですって。僕が不登校なこと、父さんにバレちゃって勘当されたので。元々ごまかす気なんてなかったのに、嘘ついてたのかって怒るんですよ…ごまかしてたのは母さんで、僕は頼んでもないのに」
「お前だって悪いんだから、素直に謝ればいいだけの話だろ。人の所為にするな」
リカちゃんの言う通りだ。隠れて小さく俺が頷くと、鹿賀は首を傾げた。
「どうして僕が謝るんですか?きちんと学校に行ってるのか聞かれなかったから言わなかった。それに隠してくれって言った覚えもない。それなのに僕が悪いんですか?」
リカちゃんの眉がピクン、と跳ねた。ああ……これは機嫌が悪いなってわかる。
俺が知る獅子原理佳という男は、他人に厳しく自分にはもっと厳しい。だから鹿賀のような『自分は悪くない』タイプは絶対に嫌いなはずだ。
その証拠にリカちゃんの鹿賀を見る瞳は冷めているし、唇は綺麗な弧を描いている。
つまり、作られた笑顔をしながらも目は笑っていない状態。
リカちゃんがそんな状態だと知ってか知らずか、鹿賀は怯むことなく真正面に立っている。
もし俺だったら確実に逃げているだろう……その点は認めてやってもいい。
やってもいいが、あまりにも無謀過ぎる。
しかし、現実っていうのは想像を軽く超えてくるものらしい。
無謀すぎる鹿賀が、無謀すぎる口を開き、無謀すぎる言葉をかけた。
「だから、先生の家に泊めてくださいよ」
その瞬間、確実に空気が凍りついた。
もう夏前だって言うのに鳥肌が立つほど寒い。その寒さの元凶は、俺に背を向けて腕を組んでいる男で間違いない。
「──……悪い、今なんて言った?」
鹿賀に教えてやりたい。これは聞こえなかったんじゃなくて「聞いてないことにしてやるから、言い改めろ」ってことだ。ここでお前が言うべきは「すみません」だ。
いくら鹿賀が気に入らなくても、情けぐらいある俺は目線で訴えた……が、そもそも鹿賀は俺のことなんて見ていないのだから意味がない。
「だから、先生の家に泊めてくださいって言ってるんです。もちろん3食付きの門限無しで」
鹿賀は、さっきよりも数段レベルアップした問題発言をくり出した。その答えは0点だ。
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