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風呂場から聞こえるシャワーの音は、俺のものでもリカちゃんのものでもない。
強引に押し切った鹿賀が呑気にシャワーを浴びている間に、リカちゃんと今後の作戦会議をしなければいけない。日中はお互いに大学と仕事でいないとしても、夜や休日が問題だ。
家に来るにあたり、リカちゃんは鹿賀に『この家の中では俺たちのどちらかが監視する』という交換条件を出した。
てっきり反抗するかと思った鹿賀は、意外にもすんなりと受け入れ、俺たちは拍子抜けしてしまったのだが……。
「こんなはずじゃなかった。慧君との関係バラせば諦めると思ったし、あの生意気なやつがあっさり従うとは思ってなかったのに」
珍しく打ちひしがれるリカちゃんを見ていると、何も言えない。もし俺が鹿賀の立場なら、教師と一緒に住むのも、ましてや恋人と住んでいる家に上がり込むのも嫌だ。
じゃあ、どうして鹿賀は家に来たのか……きっとそれは鹿賀にしかわからないし、何も考えていない可能性だってある。
「まあ、一緒に住むって言ったって、夏休みまでの間だけだし」
なんとかフォローしようとリカちゃんに声をかければ、勢いよく顔を上げ、鋭い視線が俺を射る。
「1ヶ月もだから。1ヶ月も慧君といちゃいちゃ出来ないなんて、俺絶対におかしくなる」
「お前は元からおかしいって自覚しろよ」
「なんだよ、獣姦よりノーマルって。俺と慧君のセックスを他のものと比べんなって話だ」
「いや、だからさ。その発言が既に頭おかしいからな」
リカちゃんがこんなだから、鹿賀も強引に押してきたんじゃないかと思ってしまう。もっとリカちゃんに常識があって、まともな男だったら話は違ってたんじゃないだろうか。
今更そんなことを言っても仕方ないけれど、その気持ちは拭えない。
まだ文句を言っているリカちゃんを見つめながら鹿賀とのやりとりを思い返していた俺は、そう言えばと疑問を口にした。
「リカちゃん、鹿賀の言ってた約束って何?」
どこかのタイミングであいつが口にした『約束』という単語。それの意味を訊ねると、リカちゃんが苦笑した。
「さあ?あいつは屁理屈が多いから、俺にもよくわからない」
困るよな、とリカちゃんは続けて背中を向けた。そのまま俺の着替えを手渡してきて大して内容のない作戦会議が終わる。
鹿賀の次に俺が入り、最後にリカちゃんがシャワーに向かう。その順番だったのは、潔癖症のリカちゃんが俺以外が使ったバスルームに立つことが無理だからだ。
この先の展開に不安しか残らなかった。
リビングのソファに座る鹿賀と、離れた所で立つ俺。
2人きりの空間に変に緊張してしまい、とりあえずキッチンに逃げようとすると、不意にあの声がかけられる。
「まさか本屋のお節介が先生の恋人だったなんて、意外でした。もしかして、あの時には僕のこと知ってました?」
生意気とはまた違う、人を完全に見下した声。リカちゃんと一緒の時には聞かせない、蔑む威圧的な声だ。
その声とは真逆に、鹿賀は両目を対称的に下げ、緩く笑っていた。
「恋人の生徒を注意した自分。それに酔っていたんですか?それとも、先生に褒められたくて必死だとか?」
「それってどういう意味だよ」
「そのままですけど。今ので理解できないってことは、頭のレベルはかなり低そうですね」
正直、カチンときた。リカちゃんの生徒だし、リカちゃんが頼まれた仕事だし協力してやろうって思ってたのに……。
鹿賀の言葉と態度に、なんで俺が我慢しなくちゃならないのか、理由が見つからない。
歯を噛みしめ、睨みつける俺に鹿賀が手を差し出す。
「言いたいことがあるなら遠慮せずどうぞ」
「じゃあ言わせてもらうけど!なんでお前リカちゃんの前だと態度違うわけ?!俺のことはバカにするくせに、なんなのお前!」
「ああ、バカにされてるってわかるんですね。良かった、猿以下じゃなくて」
「は?!お前マジふざけんな!!!」
大きな声で怒鳴ったら、リカちゃんに聞こえるかもしれない。でも、そんなことは別にどうでもいい。
絶対に俺は悪くない。その一心で鹿賀に食って掛かる。
「なんでお前なんか家に入れなきゃ駄目なんだよ!!」
「来ていいって言ったくせに」
「それはリカちゃんが……っ、お前リカちゃんに迷惑かけてんじゃねぇよ!」
「迷惑をかけて何が駄目なんですか?先生は僕の先生なんだから当然じゃないですか」
言い切った鹿賀は、ゆったりとした動作で足を組んだ。
全然怖くないのに。睨まれてるわけでもないし、大声で言われているわけでもない。それなのに、鹿賀を見ると、直感的に逃げたくなる。
家という狭い範囲で逃げ道なんてなく、それは叶わなかった。俺を真っすぐに見た鹿賀は、楽しそうに笑って言う。
「僕の出した宿題を全部こなせたのは獅子原先生だけなんです。誰だって自分より遥かに劣る人間を相手にしないでしょ」
平凡な顔を歪ませて笑った鹿賀が続ける。
「大丈夫ですよ。先生が期待外れだと思ったら、すぐに出ていきますから」
俺は、この時までリカちゃん以上に頭のおかしい人間はいないと思ってた。
けれど、もしかしたら……もしかすると外見だけは無害そうに見える、こいつの方がヤバいのかもしれない。そんな気がする。
リカちゃんに無理を言っては反応を見る鹿賀の目。それが満足いくものだったら嬉しそうに笑う。なんでも出来るリカちゃんと俺を比べてはバカにし、隠れて嫌味を言ってくる。
リカちゃんが鹿賀の予想を超えれば超えるほど、鹿賀の俺への視線は冷めていく。
まるで「どうしてお前はここにいるのか」そう言われている気分だった。それが何度も続き、俺は鹿賀と目が合うだけでイライラするようになった。
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