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「やってらんねぇ……あー、もうやだ!やだやだ!!」
鹿賀が我が家に上がり込んで1週間。リカちゃんの仕事部屋と寝室には入らない条件付きで住まわせて1週間。
最初に限界を迎えたのは俺だった。リカちゃんに偉そうな事を言った俺がすぐに参った。
あいつの視線が嫌い。言ってくる言葉が嫌い。醸し出す空気が嫌い。よって、俺は鹿賀が嫌いだ。
夏休みまでの期間だとしても、大学から帰ってあいつと一緒だと思うと気が滅入る。
学校に事情を説明したリカちゃんは、鹿賀がいる間は早く帰れることになったらしい。だから普段よりずっと早く帰ってくるのだが……それはそれで気に入らない。
大学の講義によって俺の帰宅時間は違うが、5限目まである日なんて最悪だ。帰ったら鹿賀とリカちゃんが揃って待っているのだから、もうマジで最悪。
思い出すだけでため息が止まらない。
「はあ……帰りたい……けど帰りたくない」
「ウサマル。それ意味わからんで」
「うっせぇ。お前には絶対にわかんねぇよ」
のんびりとした幸のツッコミもどうでもいい。ここが図書館で、私語禁止なこともどうでもいい。
「そんなに嫌なら追い出したらええやん。バンビちゃんやっけ?」
「名字はバンビでも名前はドラゴンだけどな」
チラッと俺を見た幸は、また視線を手元のパソコンに移した。
鹿賀が来てからというもの、幸への愚痴が止まらない。その度に呆れつつも聞いてくれるのだから、幸はいいやつだ。
今日だって、まだ帰りたくないと言った俺に付き添って図書館まで来てくれた。もちろんバイトまでの制限付きだが、それでも助かる。
「あいつ……マジで1発殴ってやろうかな」
「アホなこと言うな。そんなんしてみ、返り討ちやで」
キーボードを打つ手を止めず返してくる幸に、頭のいいやつは、みんなこうなのかと思った。リカちゃんも俺と話をしながら平然とテストを作ったりする。
とは言っても、幸が作っているのはテストなんかじゃない。夏休みに出される予定の課題だ。
分厚い歴史書を捲りながらレポートを仕上げていく幸を前に、俺は一向に手をつけていない自分の課題を見る。児童書を読んで感想文を書くなんて、小学生向けかと思えるような課題。
こんなの1日あれば余裕で終わるだろう。
「ほら、ぐだぐだ言ってんと課題図書取っておいでや」
幸に促されて本棚へと向かう。別にどの本でもいい俺は、1番最初に見つけた本を手に取った。それを持って幸の元まで戻ると、俺とそれを見比べた赤髪イケメンが瞬きを繰り返す。
「なんだよ」
「いや……ウサマルって、意外と頭ええんやな」
「は?俺だってこれぐらい読めるわ」
俺が言い返したタイミングで幸のスマホが震える。それは営業用のやつで、当然のように相手はお客さんだ。
「あー……ごめん、行かなあかん」
「もう?早いな」
「ん。まあ、ホストはこうやって稼ぐからな」
今までも何度かあった客からの呼び出し。それが同伴ってやつなのを幸から聞いていた俺は、本を借りることにして図書館を出た。
1人で電車に乗り、1人で帰る。見慣れたマンションのエントランスには、見慣れたやつの姿がある。
「遅い。バカ大学に通ってるくせに僕を待たせないでくれます?」
「……別に待っててくれなくていいのに」
「仕方ないでしょ。先生が鍵をくれなかったんだから」
合鍵を渡されていない鹿賀が、俺かリカちゃんの帰りを待っている光景はもう慣れた。ちゃんと約束を守って学校へ行ったのか、制服姿で突っ立っている鹿賀。その手にはぶ厚い本……タイトルからして難しそうなそれを鞄にしまい、俺を促す。
「早く。暑くて溶けます」
「それなら涼しい所に行けばいいだろ。友達でも誘って遊びに行けよ……そのまま帰ってくんな」
わざわざ待たなくても、どこかで遊んでくればいいのに。そんな気持ちを込めて言うと、鹿賀が鼻で笑った。
「友達なんて僕には必要ありませんから」
あ、こいつ不登校児だったんだ……と思い出した時にはエレベーターが来ていた。
心の中で「リカちゃん早く帰ってきて」と願いながら空気と化す俺に、前に立った鹿賀が振り返る。
「あ、獅子原先生、今日は少し遅くなるらしいですよ。帰りにスーパー寄らなきゃって……なんか所帯じみててイメージ崩れる」
「お前のイメージとかどうでもいい。リカちゃんを悪く言うな」
「悪くは言ってないです。ただの感想。これぐらいで、いちいち苛立たないでくれます?ただでさえ暑いんだから」
今すぐこいつの口を縫い付けてやりたい。けど、俺の家庭科の成績は2だから多分無理だろう。
縫うのが無理なら接着剤でくっ付けてやろうかと考えるほど、鹿賀の一言が気に触る。
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