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眉を寄せたリカちゃんから手を離し、その隣に仰向けで寝転がる。けどすぐに横向きに体勢を変え、リカちゃんを真っすぐ見た。
「あいつの言ってることはクソだと思うけど。気持ちはわからなくもない」
わからなくもないけど、やっぱり鹿賀は苦手だ。それを言ってしまうとリカちゃんを困らせるだろうから、言わずに堪えた。
言わなくても気づいているリカちゃんは「ごめん」の代わりに、俺のつむじに軽いキスを落とす。
「鹿賀と仲良くなれそう?」
絶対にありえないことを訊ねてくるリカちゃんを睨む。
「なれるわけねぇ。俺は性格悪いやつ嫌いだ」
「慧君が好きなのは俺みたいなタイプだもんな」
「リカちゃん、俺の話聞いてた?性格悪いやつが嫌いだって言ったんだけど」
愛想笑いでごまかしたリカちゃんも、俺と同じように横向きになる。向かい合ってベッドに横たわり、どちらともなく笑みが零れた。
こういう、くだらない話が出来ることが嬉しい。
「慧君慧君、そう言えば気になってたんだけど。わざわざ自分じゃ読めない本選んだ理由は?」
閉じた本の表紙を撫でながら、リカちゃんが聞く。
「1番最初に見つけたのがそれだったから。でも、英語で書かれてるなんて知らなくて後悔した」
「慧君がこの本を選ぶわけないって、わかってたけどな……こういう時は、リカちゃんに読んでほしかったからって言うべきだろ」
「リカちゃんが言ってる意味がわかんねぇ。ってか、そんなに変な話なのか?」
聞き返した俺に、リカちゃんは目を伏せる。伸ばした手で俺の前髪を掻き分けながら、静かに口を開いた。
「捨て子の主人公が、自分の役割を探し求めていく話。慧君は、こういった意味深な話は好きじゃないだろ?」
初めからそれを知っていたら俺は選んでいない。重たくて暗そうな話なんか、読んだって絶対に理解できないからだ。
そもそも、親に捨てられたって時点で嫌悪感がある。
「なあ、それってハッピーエンドで終わる?」
まだ表紙を撫でているリカちゃんに訊ねると、含み笑いが返ってくる。
「まあ、ハッピーエンドと言えばハッピーエンドじゃないかな。意外な展開で終わるけどね」
「……やっぱり変えようかな。なんか難しそうだし」
リカちゃんの手にある本を取り返そうとした。けれど、俺が触る前にリカちゃんはそれを遠くへ離してしまう。
「1度決めたことを撤回するなんて、男らしくないよ慧君」
「別にこんなところに男らしさなんて必要ない」
リカちゃんとの時間が減るのは嫌だけど、課題で苦労するのも嫌だ。やっぱり違う本にしようと思った俺は、起き上がって奪おうと身を乗り出した。
けれど俺の身体は本を奪うことはなく、逆にリカちゃんに捉えられてしまう。
「この主人公にとっては、役に立てることが最高の幸せなんだよ。だからそれをくれた人が、この子の全て」
俺を身体の上に乗せ、リカちゃんがそっと抱きしめる。押し当てられた胸からは心臓が動いている音が聞こえた。
黙ってその音を聞く俺に、リカちゃんは言葉を続ける。
「俺にとっての慧君みたいな感じ。そう思ったら、続き読みたくなっただろ?」
「ならねぇよ」
即答するとリカちゃんの腕から力が抜ける。だから今度は俺がしがみつく形で体勢を保った。
「……リカちゃん、重たいんだけど」
「この場合は俺の台詞じゃない?」
「それなら離せばいいだけだろ。バカかお前」
「バカはお前な。俺が慧君を離すわけない」
俺の髪を指に巻き付けて遊ぶリカちゃんに、「それって常識なのか?」と聞いてみる。間髪入れずに「当然」と返ってきて照れた。
リカちゃんはくっそ重たいし、選んだ本は暗いし、しかも英語だし面倒くさいけど。それでも最後まで読もうと思った。
俺の知らない話をリカちゃんが教えてくれて、結末まで導いてくれる。それなら、他の話に変えるなんて選択肢は簡単に消えてしまうものだ。
何気ない時間はすぐに過ぎ、そろそろ眠らなきゃいけない時間がくる。名残惜しく俺を下ろしたリカちゃんに擦り寄り、定位置についた。
「仕方ないから、読んでやってもいい」
「それ慧君が言う?あんまり生意気言ってると、嘘の話するかもよ」
「そんなことしたら、しばらくエッチしない。お触り禁止令出してやる」
「え、無理無理。それだけは絶対やめて。慧君に触れなくなったら、俺の生きてる意味がなくなる」
僅かに焦ったリカちゃんに「バカ」と言って首の付け根を噛む。シャツの襟で見えないところに痕を残せば、お返しに小さな赤い痕を与えられた。
歯型よりも濃くて、なかなか消えない痕。それを舌で馴染ませたリカちゃんが、耳元で唸る。
「ああ……早く慧君抱きたい。1日中ベッドにいて、ずっと触っていたい」
「お前、本音漏れすぎ」
「慧君限定だからいい。さ、早く寝て夢の中で慧君とセックスしよ」
綺麗な笑顔で、どぎつい事を言ったリカちゃんの脇腹を抓む。痛いなら逃げたらいいのに、リカちゃんは俺を離そうとはしない。
「……やっぱり禁止令出そうかな」
腕の中で呟く俺に、リカちゃんが苦笑する。
「さっきのは嘘だよ。いや、嘘じゃないけど……って、痛いから同じところを抓るな」
「嘘か嘘なのか、どっちだよ」
ジト目で睨んだ俺に、リカちゃんは躊躇うことなく「俺は嘘はつかない」と答えた。
それって夢の中でエッチしてんじゃん!!と理解した時には、隣の変態は目を閉じてしまっていた。
でも他人とされるよりはマシだと、寝たふりに騙されてやることにする。
俺はリカちゃんと違って常識人だからだ。
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