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真っ直ぐに向けられる視線から、背けずに答える。
「鹿賀は、誰かの相手を強引に奪うようなやつじゃない」
「なんでそう思う?」
「なんとなく……でも、あいつなら恋愛事で誰かと揉めるなんてしないと思う。そういうの、くだらないって言っちゃうやつだから」
揉めるどころか、誰かを好きになったこともないんじゃないだろうか。
俺とリカちゃんの関係を知った時も、今朝も、鹿賀はすごく淡々と話していた。まるで自分で自分を観察しているような、計算をして出た答えを告げるような感じ。
あの鹿賀の様子からは『恋愛感情』なんて全く伝わってこない。
「そういえば……あいつ、意味わかんねぇこと言ってた」
「もうすでに意味わかんねぇけどな」
その意見には俺も同感だけど、いちいち話の腰を折るのはやめてほしい。歩を軽く睨むと、聞こえるか聞こえないかぐらいの小声で謝ってきた。
珍しく素直に謝った歩に満足し、続きを口にする。
「他人がどうとか…名前がなんたらって。言われたことに驚きすぎて全く覚えてないけど」
何を言われたか思い出そうとしても、全然出てこない。一通り今朝の鹿賀との会話を頭の中で流してみたけど、結果は同じだった。
「駄目だ。出てこないから、それはいい」
諦めた俺に歩が素早く言い返してくる。
「いや大事だろ。それが理由なら、そこを解決すれば付き合う必要もないんだし」
お前はバカかと言わんばかりの歩の顔。そんなものは見慣れているし、今はそれに構っている時間すら惜しい。
「ってことは、付き合う以外の選択肢で鹿賀を納得させれば平気…ってことか」
ポン、と手を打って頷く。やっと見えた打開策に、抱えていた悩みが軽くなった気がした。
「なんか今回は意外と楽勝な気がする」
「は?」
「さすがに付き合えとか、リカちゃんと別れろは無理だけど。でも、今だって居候させてるし、これ以上の難題なんて出てこないだろ」
冷静に鹿賀の話を聞き、その解決案を俺も考える。そうすれば、本当に付き合いたいわけじゃない鹿賀を説得できる。
いつになく浮かんだ名案に頬は綻び、俺は得意げに歩を見た。
「落ち着いて考えれば簡単な話だったな」
「あれだけ必死に人に頼み込んできたのは誰だよ……」
「鹿賀が学校で1番の秀才だとしても高校生だからな。俺の方が人生の先輩なんだし、アドバイスしてみる」
「アドバイスになればいいけどな。慧は兄貴以外には甘いから、俺はそれが不安だ」
歩が何を心配しているのか、よくわからない。雰囲気で意味を教えるよう促すと、歩は2本目の煙草に火を点ける前に言った。
「お前は人に頼ってばかりだから、自分が頼られてるって勘違いして絶対に調子に乗る。空回りして失敗する未来が俺には見えてる」
その『なんでも知ってる』みたいな言い方が気に入らなくて、眉間に皺が寄った。
「バカにすんな!俺だって頼りになるってところ、お前に見せてやる」
「俺に見せてどうする。お前は兄貴を怒らせない、兄貴の邪魔をしない。それだけ守ってればいいんだから、おとなしくしておけって。そのうち兄貴が全部解決するって」
そう歩は言うけれど、俺はそれじゃあ駄目なんだと思った。鹿賀はリカちゃんじゃなく俺に言ってきたのだから、俺がなんとかしてやらなきゃいけない。
今まで自分を助けてくれた桃ちゃんや美馬さん。話を聞いてくれた拓海や歩に、幸。
そしていつだって見守ってくれていたリカちゃんのように。
俺が鹿賀の問題を解決してやる。
「俺だって人に優しくできるんだって、歩に思い知らせてやる」
声高らかに宣言すると、歩から漏れたのはため息だ。
「それこそマジでどうでもいい。ただ、1つだけお前に忠告しておいてやるよ」
咥えっぱなしだった煙草に火は点けず、それを箱に戻した歩が立ち上がる。まだ座ったままの俺を見下ろし、静かに口を開いた。
「お前が何をするかは知らないけど、優しくする相手を間違ったらアウトだからな」
そんなの間違えようもないと返せば、歩は何も言わずにその場を去って行った。
人に優しく、自分に厳しく。
それはリカちゃんのことであり、星兄ちゃんのことでもある。俺が目指す2人に近づくために、絶対に失敗なんてしない。
「とにかく、まずは鹿賀の話を聞いてやるところからだな。どうせ、すっげぇバカにされるんだから、今からイメトレでもしとくべきかな……」
嫌味を言われても怒らず、理不尽なことにも怒鳴らない。とりあえず話を聞いて、鹿賀の考えを知らなきゃいけない。
そうすればきっと、鹿賀が学校に行かなくなった理由や、あれだけ捻くれた原因がわかる気がする。
それを俺が聞き出せばリカちゃんも楽ができるかもしれない。
「よし、行くか」
時間いっぱいまで頭の中でシュミレーションを重ねた俺は、数ヶ月前まで通っていた高校へと向かった。途中にある最寄り駅で鹿賀と待ち合わせし、手近な店へと入る。
気合い十分、準備も万端。何を言われても怒らないし焦らない。再び自分に言い聞かせ、鹿賀と対峙する。
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