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「何も観ないならベッド行く?せっかくテレビ占拠できるのに、もったいないね」
小首を傾げたリカちゃんが俺を手招きした。きっと、一緒に寝室に行こうって意味なんだろうけど、納得がいかない。
鹿賀は生意気だし、偉そうだけど高校生だ。今はまだ良くても、これからどんどん暗くなって、店も閉まったら絶対に困る。
その反面、別に24時間の漫画喫茶に行けばいいと思う自分もいる。何もないド田舎じゃないんだから、一晩ぐらい平気だろって思う俺もいる。
じゃあ何に納得がいかないのか……それはリカちゃんの態度だった。
俺の知っているリカちゃんはバカだけど責任感があって、俺様だけど優しい。冷たい時もあるし、怖い時だってあるけど誰かを見捨てたりしない。
目の前にいるこいつは、俺の知ってるリカちゃんじゃない。
「お前、誰?」
訊ねた俺に、リカちゃんは首を傾げたまま。そのままで瞬きをする。
「誰だよ。リカちゃんのふりしてんじゃねぇ」
「慧君、何言ってんの?」
「俺の知ってるリカちゃんは、お前みたいな無責任なことしない。自分の生徒を放置するような、最低なやつじゃない」
リカちゃんの片眉が僅かに動く。どの単語に反応したのかはわからないけれど、機嫌が悪くなったのは確実だ。
手招きしていた手は下ろされた。もちろん俺もリカちゃんの隣に座ったりしない。
リカちゃんはソファに。俺はベランダの近くに立って、無言で向かい合う。先に口を開いたのは俺だった。
「なんで鹿賀に他人だなんて言ったんだよ。あいつ、すげぇ気にしてた」
あの鹿賀が泣くぐらいだ。俺の聞かされていないこと以外にも、きっと揉めたんだと思う。
今、俺の中ではリカちゃんは加害者で、鹿賀は被害者だった。鹿賀は自分から出て行ったんじゃなく、リカちゃんに追い出されたんだと思った。
だから許せない。それでもって信じられない。
自分に厳しく、他人に優しくできるリカちゃんが、鹿賀を傷つけるなんて信じたくなかった。
「なんで?!生徒にそんなこと言うなんて、お前はそれでも教師か?!」
怒鳴った俺をリカちゃんは観察しているかのように見つめる。
「黙ってないで答えろよ!」
俺も負けじと睨みつけ、絶対にそらさない。
「教師だったら……──相手が生徒だったら全てを我慢しなきゃ駄目なの?俺にだって守りたい距離感はある」
「鹿賀はただ、気を遣ってくれたたけじゃねぇかよ」
「そんなの誰も求めてないよ」
「お前は人の優しさを受け取れないのか?!」
遮るようにカツン、と音がした。
カツン、カツン、カツン。一定の間隔で鳴るその音は、リカちゃんがテーブルをジッポで打つ音。それは次第に早くなって、耳に溜まっていく。
まるで、リカちゃんが溜め込んでいた何かを爆発させているような、そんな感覚に陥る。
「優しさ、ねぇ……。それで全てが解決できたら誰も苦労しない」
緩く笑ったリカちゃんは、俺に向かって「意味がわかる?」と答えを促す。
一体何を言っているのかわからなくて戸惑っていると、ふっと笑って手にしていたジッポをゴミ箱へと投げ捨てた。
それだけじゃなく、ソファにあった読みかけの本も。最近じゃ触ることが少なくなったテレビのリモコンも。
捨てられなかったのは俺がプレゼントしたシガレットケースと灰皿だけだ。
その2つだけが乗ったテーブルに片足をかけ、ソファにふんぞり返る。背凭れに両手を預けるその姿は、偉そうとは違った印象を受ける。
なんて言っていいか言葉にできないけど……何かに失望しているような、そんな感じだ。
「鹿賀が、あいつが出て行った理由知りたい?」
頷くことも拒否することもしなかった。なんとなく、どっちを選んでも結果は同じだと思った。
「友達になりたいんだってさ。友達になることすら駄目なのか、って」
「…………それにリカちゃんはどう答えた?」
「決まってるだろ」
嘲笑したリカちゃんが上半身を起こし、シガレットケースを手に取る。てっきり捨てられるのかと思って焦ると、リカちゃんはそれを捨てたりはしなかった。
大事そうに両手で包み、すごく優しい顔をする。俺が好きな黒い瞳でケースを眺め、俺が好きな甘い声で鹿賀への返答を俺に教えてくれる。
「──相応しくない…いや、話にならないだったかな。ちゃんと覚えてないや」
『覚えてなくてごめんね。でも別にどうでもいいや、興味ないから』
笑って謝ったリカちゃんを、感情のままに殴りつける。
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