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116 (R18)
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目の前で青い布が揺れる。ふわり、ふわりと左右を動くその正体を、俺は知っている。
結び目から続く布地に描かれた絵。意気揚々とそれを描いていた時と今の差を実感し、悔しくなった。
「本当は明日着けようと思ってたんだけどね」
目を細めてそれを見たリカちゃんは言うけれど、ちっとも嬉しくない。
あれからのリカちゃんの行動は早かった。片膝で逃げないよう俺の身体を押さえ、無駄に長い手を伸ばして自分の鞄を掴む。そして、中から青くて細い何かを取り出した。
その片側を左手に持ち、右手で俺の手首を拘束する。そしてにっこりと笑う。
「こういう時、両利きって便利だろ?」
「──っ……離せ!今すぐ俺を離せよ!!」
「はい、不正解。そんなこと誰も聞いてないよ、慧君」
しゅるしゅると手首に巻かれる青。ぎっちりと巻かれたそれが固く結ばれると、やっと押さえつけていた膝が外された。
抵抗できない俺を見下ろし、リカちゃんは深く頷く。
「うん、慧君が選んでくれただけある。すごく似合う」
リカちゃんが俺を縛った物の正体、それは俺が誕生日にプレゼントしたネクタイだ。1年以上が経った今でも綺麗なままのそれは、大事に使ってくれている証拠だろう。けど、俺はこんな事に使えなんて一言も言っていない。
視界の端で俺が描いたうさぎが見つめてくる。
喜ばせる為に渡した物で自分がピンチになるなんて、誰が想像するだろう。そこまで考えてプレゼントを選ぶやつがいるなら、教えてほしいぐらいだ。
暴れて捲れた服の裾から入ってきた手は、素肌を滑ってそこに触れた。
もう何度も触られてきた場所。リカちゃんと出会う前は、何の意識もしてこなかった胸元の飾りを抓まれ、腰が跳ねる。
「……く、んっ」
「もっと声出していいのに。もう邪魔者はいないんだから」
「うるさっ、こんなの……っ、なんとも、思わない」
たとえリカちゃんが俺以上に俺の身体を知っていたって、素直に反応なんかしたくない。こうして無理に始まった行為を受け入れてしまうことは、俺のプライドが許さなかった。
だから嫌だって、気持ち良くなんてないんだって伝える。
言葉で、態度で、視線で。俺は目一杯にリカちゃんを拒絶する。
縛られた手で顔を隠し、唇を噛みしめた。頭の中では違うことを考えて、意識しないように心掛ける。
じゃないと簡単に飲み込まれてしまうから。リカちゃんの目を見て、リカちゃんの声を聞いちゃったら、俺はすぐに落ちてしまう。
「…………可愛くない」
ぽつり、と落とされた声。低く冷たい声色に肩が竦み、薄く目を開けて様子を窺う。怖いものって見たくないけど、無性に見たくなるっていう矛盾したあれだった。
「出さないなら出させるまで。そんなことしても無駄だって」
抓まれた乳首が痛む。じんじんと痺れるこの感覚は、気持ちいいを越えて痛みだけを伝えてくる。
声を出させると断言したリカちゃんの行為は激しくなって、俺を追い込んでいく。
それでも我慢して、また我慢して。痛みだけを感じようと必死になって。唯一自由な足を振り乱せば、跨いだリカちゃんによって封じられてしまう。
俺にとっては精一杯だった。もうこれ以上はやめろって何度も心の中で叫んだ。けれど、声に出さない願いは届かないし、きっと届いたとしても叶わない。
俺の願いなら何でも叶えてくれるリカちゃんは、今はいない。
「──ひっ……」
散々弄られて敏感になった乳首に、リカちゃんの舌が触れる。ぬるりと周囲を沿って、中心に絡みついた温もり。唾液に濡れた胸の頂に当たるのは硬い感触。
じりじりと肌を刺すその正体に、腰が引けてしまう。今の状況なら、思いっきり噛まれるんじゃないかという恐怖が募る。
俺の胸に唇を押し当て、顔を埋めていたリカちゃんが視線だけをこちらに向ける。冷めきった黒い瞳は何も考えていないような『無』で、抱いた恐怖が現実になる気がした。
「や、い、やだっ……リカちゃんやだ、痛いのはやだ」
首を振って嫌だと告げると、リカちゃんは今度は笑わなかった。少しの間だけ俺を見つめ、瞼を伏せる。そして次の瞬間、全身を電流が走り、つま先までピンと伸びる。
痛くて熱い、疼いて痺れる。ゆっくりと、けれど確かに広がっていくこの感覚は、間違いない。
2つある中で、特に弱い左の乳首にリカちゃんが歯を立てた。噛んだと思ったら舐めて、気持ち良くなったらまた痛みが襲ってくる。快感で油断させ、突然の痛みで怯えさせる。
目の前で揺れるウサギの刺繍が、悔しさを悲しさに変える。
痛いのも気持ちいいのも全部が悲しい。
ただ、悲しい。
「リカちゃん」
胸の辺りを動く黒い頭に呼びかける。そこから上がった顔は俺の好きなそれだけど、俺が好きなのは顔だけじゃない。
ふわっと笑う時もあれば意地悪に歪む時もある瞳。やめろって言っても「好きだから」と匂いを嗅いでくる鼻に、用もないのに慧君と呼ぶ唇。
全てがリカちゃんだけど、それは容れ物でしかない。核の部分がリカちゃんでなきゃ、それは俺の好きな人じゃない。
俺は、こんなやつをリカちゃんだとは認めない。
「お前なんか……っ、大嫌いだ!!」
俺はお前をリカちゃんだなんて絶対に認めない。
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